『 礼は言っとくよ 』
私の前で気まずそうな顔をしながら座っているのは別居中の旦那。
そして、今日は旦那の誕生日。
あの子の考えそうなことだわ。
「…全く、久しぶりに会ったっていうのにそんな態度はないと思うんだけれど」
向かい合って無言のまま五分。
痺れを切らした私が口を開いた。
「こっちは英理に会いにきたわけじゃねぇんだ。美女がこの名探偵小五郎の誕生日を祝いたいっていうから…」
彼だってきっと蘭の考えだってことくらい分かっているはず。
美女なんて来ないことも承知で、ここに来たんだろう。
「あら、そう?じゃあ、私はその美女っていう子が来る前に帰ろうかしら」
私が席を立ち、帰ろうとすると彼は慌てて呼び止めた。
「おっ…おい!」
「…何よ、私が帰ったほうがあなたの都合がいいんじゃないの?」
振り向いてそう言うと、「別に…せっかく来たんだから飯くらい食ってけ」
ぶっきらぼうにそう言うのは出会った頃から全く変わっていない。
「じゃあ…そうしようかしら」
座りなおすと、コースが運ばれてきた。
「あら、綺麗」
運ばれてきた前菜を見ていると、「そういうの昔っから好きだよな、お前」と
既に食べながら彼は言う。
「…ほら、これ」
綺麗に包装された箱を渡す。
「あなたに風邪引かれたら困るでしょ、蘭にうつったらいけないし」
箱の中身はマフラー。
風が冷たくなった今、外で聞き込みをする時に風邪をひかないように。
蘭にうつったらいけないなんて言ったけれど…
無茶をする彼を放っておくのはちょっと心配だったから。
「あなた今日、誕生日でしょ」
「お、おう」
彼は箱を受け取ると、言った。
「まぁ…礼は言っとくよ。ありがとな。」
本当、この人って素直じゃないのよね。
まぁ、そんな人に惚れてしまったのはこの私なのだけれど。
「お礼を言うなら蘭に言ってあげてちょうだい。」
「はぁ?こっちが礼を言ってやってんだ。素直に受け取ればいいじゃねぇか」
それに…私もこの人のことを言える立場じゃないものね。
素直になれないのは私も一緒。
似たもの同士ってことね。
2012/12/22
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ありがとうございます!
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