『Thank you . 』

高校三年の俺の誕生日。

俺はある場所で緊張していた。


大勢の記者も、写真のフラッシュも、大人から子供まで見知らぬ人からの目線も、全部とっくに慣れていた。まさか、もう緊張することなんかない。


しかし…



ここはある建物の最上階のレストラン。
ドレスコードのある、高校生では普通入れないような高級な店だ。

高校生である俺が、何故こんなレストランに予約を入れたのか。
それには訳がある。





「ね…ねぇ、新一。本当に大丈夫なの?」


目の前に座っている幼馴染みが心配そうに聞く。


「だ、大丈夫に決まってんだろ?」


多少だけれど声がうわずったかもしれない。
変に思われてしまっただろうか。


「ここ、高そうなお店よ?」

「親父のカードをこっそり持ってきたんだ。心配すんなよ」


どちらかと言うと、俺は高そうな店のことよりもこれから伝えることについての心配のほうが大きかった。頭の半分はそのことを考えているくらいだ。


「ねえ、ねぇってば!」

蘭に呼ばれて、ようやく視線を蘭に向ける。


「ぼーっとしちゃって、どうしたのよ」

「いや、なんでもない」

「そう?なんでもないのにこんな高そうなお店に新一がわたしを連れてくるなんて思えないんだけど」


「えっと…その…」


急に、その話をふられた気がして俺は焦りを隠せない。


「ほら、なんでもいいなさいよ」


蘭にせかされて、戸惑う。






「わたしに謝りたいことがあるんでしょ?」


「は?」


「え、違うの?わたし、てっきり新一は何か謝りたいことがあるんだと思って…」


「そんなことねぇよ、蘭に謝りたいことがあったからこんな所に来たんじゃない」

「だったら―…なんで?」




「それは――…」






一呼吸置いて、話をしようと決心がついたとき。




「お待たせ致しました」




コースで頼んでいた料理が運ばれてきた。

「わぁ〜美味しそう!」


蘭も料理を見て、目を輝かせてるし。
…まだ、あとでいいか。






「これ、美味しいね」

「そうだな」


次々に運ばれてくる料理に蘭はその度嬉しそうな顔をしながら食べていく。
こんなに喜んでくれるなら、わざわざここに来た甲斐もある。

不意に蘭は俺に聞いてきた。



「ここって…新一のお父さんがお母さんにプロポーズした場所なんでしょ?」

「え…知ってたのか?」


そんなこと知らないと思っていたからここにしたのに。


「実は、前ここに来た時にウェイトレスさんが教えてくれたの。ここで、プロポーズした人がいたってね。話を聞いててすぐに新一のお父さんのことだと思ったの」


「さっきの人か?」

「さっきの人じゃないけど、まだここで働いていると思うよ」

「そうか」


俺の顔も、蘭の顔も赤かったのかもしれない。
ただ、お互いに照れ隠しで顔を見ていなかったから気づかなかっただけだろう。





「今日は一緒にデザート食べられてよかったわね」


不意に後ろから声をかけられた。


「あ、この前の!」

蘭と知り合いらしく、ウェイトレスは近くにやってきた。



「久しぶりね、今日はデートかしら?」


「そんなんじゃないですって」

「じゃ、ゆっくり楽しんで行ってね」


何回か会話をしたあと、ウェイトレスは戻って行った。


そしてウェイトレスが戻ったあと、俺はデザートを食べている蘭にようやく話をする決心がついた。



「なぁ、蘭」

「なに?」

「話がある。」


「…うん」


蘭は食べるのを止め、俺の目を見る。
俺は今にも耐えられなくなりそうな心臓を落ち着かせ、深呼吸してから話始めた。




「俺…高校を卒業したら大学に入って、大学を卒業したら警察に入ろうと思う。」


「うん」



「そしていつかは自分の探偵事務所を持ちたいんだ。」

「新一なら出来るよ」


優しく微笑んでくれる蘭。

こうやって笑ってくれると無理なことでも出来そうな気がしてくる。



「そしたら今よりもすごく忙しくなると思う。」

蘭から笑顔は消え、表情が曇る。



「…うん」


「…わがままだって分かってるけど、でも…蘭には俺の傍に居て欲しい。」



そして、蘭の目を真っ直ぐ見つめて言った。





「…俺と、結婚して下さい」





一瞬目を見開いた蘭の目から、涙がこぼれた。

涙は頬を伝い、蘭は笑みを浮かべて頷いてくれた。




「わたしも…新一とずっと一緒に居たい」



「ありが―…」



肩の力が急に抜け、「ありがとな」と言い終わる前に

「よかったわね、新ちゃん!」
「よかったな、新一」

よく知った声が聞こえて来た。




「父さん…母さん?なんでこんなところにいるんだよ!」
「新一のお父さん、お母さん!」



「あら、蘭ちゃん。『新一の』じゃなくて、これからは『蘭ちゃんの』お母さんにもなるのよ?」

ウインクしながらそう言うのは俺の母さん。


「えっ…あ、はい///」


蘭は頬を染めて母さんと話をしている。



「父さん、なんで来たんだよ」

邪魔するためにでも来たのかよ、と聞く。


「自分の息子の一大事だ。外国にいたって飛んでくるさ」


俺の肩を掴み、「よかったな」って父さんは言った。


「お、おう…」



「式はいつ挙げるの?」
「婚姻届はもう出した?」
「指輪は?もう、買ったの?」
「子供は?」
「家はどうするの?」



「おい、母さん!いくらなんでも話が早すぎだろ!」


母さんの質問攻めに俺が怒鳴った時。




「プロポーズしたのか?」
「おめでたいな」
「お幸せに」


周りの人達が一斉にこっちを向き、拍手をする。


「おめでとう」

蘭の知り合いのウェイトレスも出てきて、小さなホールケーキを持ってきた。



「これは、わたしからのお祝い」


「ありがとうございます///」

蘭は嬉しそうに笑顔を浮かべた。





そのあと、周りはずっと「おめでとう」と言ってくるし
気まずさは、今まで経験した中でこれ以上になかった。



けれど…


ようやく伝えられたんだ。







『 Thank you . 』

父さんと母さんの携帯に送ったメール。



『ありがとな』

そして蘭に言った言葉。




感謝してる。
俺を生んでくれて、育ててくれて。

支えてくれて、理解してくれて。

絶対幸せにする。










今まで出会ってきたみんなに言いたい。



本当に…







Thank you .








※1000HITありがとうございます!
今回は新蘭でした。

1000Hitなんて、夢みたいです。
コツコツとやっていけば嬉しいことありますね。

なにも分からない状態から始めたこのサイトですが、いつも来て下さる方には感謝しております。
ありがとうございます。

次は2000Hitを目標に頑張ります!
これからもどうぞ、末永く『あなたに届け幸せの時間』を宜しくお願いします!




2012/06/16



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