『 ありがとね 』
少年探偵団の子供達に囲まれて生活し始めて半年が経とうとしている。
「あ〜!腹減ったぁ…」
「元太くんはいっつもお腹すいてますよね。」
「さっきお昼ご飯食べたばかりなのに。」
「しょうがないじゃんかよ。腹、減るんだから。」
「ったく、元太はどんだけ食えば気がすむんだよ。」
隣でなんともゆるい会話がされる。
組織で薬を開発していたときには考えられなかったくらいに穏やかな日々。
「…ら、…ばら?灰原?」
工藤くんに名前を呼ばれてはっと我に返った。
「あら…どうしたの?」
「ぼーっと考え込んで…ったく、どうしたんだ?」
不思議そうな顔をする工藤くんに、私は「何でもないわ。」と返事を返した。
「また、組織のことでも考えてたんじゃねーのか?」
工藤くんはどうしてこう…人の心が分かるのかしら。
私が黙っていると、それを肯定だと受け取った工藤くんは三人から少し離れて私と歩く。
「毎日、そんなことばっかり考えてんじゃねぇよ」
工藤くんはポケットに手を入れたまま、私と目を合わせないように真っ直ぐ前を見て歩いた。
「お前はお姉さんのためにやったんだろ?…お前自身が悪いわけじゃない」
「でも…私はあの薬を―…」
「研究してたとはいえ、知らなかったんだろ?…あの薬の使い道も」
「でも…もっと早く気づくべきだった…」
あの薬を作っていた。
…それを考えるだけで、手が震える。
あんなものを作っていた自分がこうして生きていても良いのか。
そんな風に思ってしまう。
「お前は気づくことが出来たよ」
「えっ?」
私が工藤くんのほうを見ると、工藤くんは空を見上げていた。
「灰原は気づいたから、自分の意志で組織から逃げ出したんだろ?それだけでいいんじゃねぇのか?」
「…どうして?どうしてあなたはそんなこと言えるのよ!」
少しだけ声を張り上げてそう言った私に工藤くんは驚いていた。
「どうして?って…」
「私のせいで、あなたにはすごく…すごくたくさんの迷惑をかけてるのよ?どうしてそんな言葉が言えるの!」
「…迷惑だなんて思ってないぜ。確かに体が小さくなって色々と不便なことはある。」
「…ごめんなさ「でも、俺は灰原に会えてよかったって思う」
「えっ…?」
工藤くんは見上げていた空から視線を私へと移し、彼がするいつもの笑顔で私に言った。
「こうして小学生やってても、お前がいるから飽きねーよ」
あなたはどこまでも優しい人ね。
「ありがとね…工藤くん。」
気づいたら涙が出ていた。
人前で泣くなんて…あの日以来かもしれないわね。
「お、おい。灰原?」
「おい、コナン!灰原泣かすんじゃねぇぞ!」
「コナンくん!灰原さんを泣かせるなんて僕が許しません!」
「コナンくんひどい!哀ちゃん泣かせるなんて!!」
「お、おい…俺は何も…!」
「言い訳は駄目だって母ちゃん言ってたぞ!」
「哀ちゃん、大丈夫?」
「灰原さん、ハンカチです。よかったら使って下さい」
何故かしら。
涙が止まらなかった。
吉田さんや小嶋君、円谷君…そして工藤くん。
みんなの優しさが嬉しかったのかもしれないわね。
私にはこうやって心配してくれる人がいるって…
少しだけ…勘違いしてもいいのかしら。
「ありがとう、もう大丈夫よ」
優しくしてくれたみんなに笑顔を向ける。
ねぇ工藤くん。
私…上手に笑えてるかしら。
※700HITありがとうございます!
今回はコ哀でした。
探偵団のみんなの名字がなかなか覚えられず、思い出そうとしたけれど出てこなくて…
結局調べたり(笑
久しぶりの哀ちゃん目線!ということもありましたが、結構短時間で書けたのではないかと。
あ、でも一時間くらいですかね。
それはともかく、本当にいつもありがとうございます。
これからも宜しくお願いします。
2012/03/29
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