『おおきに』

「あ〜…疲れた〜」

時計の針が11時45分を過ぎようとしていることに気づき
俺はそろそろ風呂でも入ろうかと思った時やった。


―…なんか忘れてへんか?

心の中で俺自身が俺に尋ねる。


「なんやったっけな〜…」

自分の部屋の中、一人で呟いただけだから
当然返事は返ってこない。


ふと、俺は机に置いてあったオレンジ色のりぼんが目に入った。

この間、和葉が家に遊びに来たときに忘れていったのだろう。


「…ん?和葉?」


―…。思い出した。


「今日は和葉の誕生日や…」


俺は勢いよく家を飛び出し、和葉の家へと走った。


立て続けに事件が重なり、家に戻ることのなかった俺は
和葉の誕生日プレゼントを買うたることも忘れてた…

やっと今日、事件が片付いて帰ってこれたのだ。
それも二週間ぶり。



腕時計に見えたのは、55分を過ぎようとしている時計の針やった。


「頼む…!間に合ってくれ!!」

俺は持っている限りの力をだして全速力で走った。


「はぁ…はぁっ…はぁ…」

息が切れて呼吸をするのが苦しい。


和葉の部屋の明かりがついていた俺は、すぐに携帯から電話をかけた。

―PLL…PLL…

三回目のコール音が鳴る前に和葉の声が聞こえた。


「もしもし、平次?こんな時間に…」

俺は和葉の言葉を最後まで聞かずに言った。

「ええから、下におりて来い!!外や!外!早う!今すぐや!!」

「なんなん?」と言う和葉の声が聞こえたが、俺は一方的に電話を切った。


今日が終わるまで、あと一分…


「頼むっ…和葉、早うおりて来い…」



ガチャっとドアのひらく音がして、二週間ぶりに和葉の顔をみた。


「和葉!!」

俺は和葉に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。

「誕生日、おめでとさん。」


なんやもう…色々と精一杯で、それしか言われへんかった。


「覚えてくれてたのん?」

本当は忘れてたけど、思い出したんやから…今回ばかりは許してくれ。



そう心の中で和葉に謝り「…当たり前や。」と言った。


誕生日くらい、素直な気持ち…伝えてやらんとな。
そう思った俺は普段言わないようなことを言ってやる。


「和葉…好きやからな。」


むちゃくちゃ恥ずかしゅうて顔が火照る。

「アタシも平次のこと…好き。」


嬉しくて、和葉を抱きしめる手に力が入る。

「おおきに…平次っ…ほんま嬉しい。」

和葉の声は震えていた。


「な〜に泣いとんねん。」

「な…泣いてへんもん。」

「さよか?」

「…うん。」


遅くなってもうたけど…


―何とか間に合った11時59分。

和葉の誕生日が終わるまで、俺はずっと腕の中に和葉を抱きしめた。


こんな俺を好きでいてくれて、ほんま…おおきに。




※100HIT記念。
『ありがとう』をテーマに書きました。
平和の二人は関西弁だから『おおきに』ってことで…
100HIT、ありがとうございます!!


2011/11/02


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