毎日は平和 Short | ナノ 歩幅





(アカン、なんや今日は変に意識してまう…)

隣を歩く平次の横顔をこっそりと見ると、不意に目が合った。


「なんやねん、こそこそ見よって」

アタシの視線に気づいていたのか、平次は少し不機嫌そうに言い放つ。
そないに強く言わんでもええのに……

「別に……なんもない、けど」

「さよか」


なんや、今日の平次アタシに対してつめたい気ぃする。
素っ気無いと言うか……いつもなら、こんなに黙って歩くことなんかないのに。


何でなんやろ?いつも一緒に登校してるくせに、何で変なんやろう?

いつもと違う、自分の心。
驚きつつも、それが平次にバレへんように『普段通り』を心がける。


「……なぁ」

「え?なっ、何?」


突然、平次に話しかけられて返事をした声が裏返った。

(アカン……平常心、平常心や。落ち着きアタシ)


「お前、今日どうしてん?」

「……?」


言われた言葉の意味が分からなくて、首を傾げる。



「……元気ないなぁ思って」


黙っているわたしに平次は続ける。



「……怒らせることしたか?」

「してへんよ」




「俺、何した?」

「なんもしてへんよ」



「嫌なことでもあったか?」

「ないよ」


「…………」


困り果てて黙ってしまった平次。
なんや、ちょっと悪いことしてしもうたわ……



「……元気ないわけとちゃうねん」

「ほんなら、なんで今日は静かやねん」


平次が静かだったのは機嫌が悪いからとかとちゃうて、アタシのことを気にかけてくれてたんや……


「……なんや、変な感じがして」

「どこか悪いんか?」



「ちゃうよ……平次と歩いてんのんが」

「俺と歩くのが、変っちゅう訳か?」


「そう、かも」

「……なんやねん、それ」



平次は機嫌を悪くしたようで、歩くスピードを上げた。
アタシの二、三歩前を歩く形になる。


「あっ……!」

「どうした」

「これや!」


アタシが大きな声を出すと、平次は振り返る。


「いつもと同じや」

「何が」

「風景」

「……は?」


「いっつも平次はアタシより前を歩くやんか、それなのに今日はゆっくりやったから変な感じしたんやろなぁ」


「……アホ」

平次はそう言い放つと、アタシの前を歩いて行った。


「……こっちが心配すると、これや」

「ん、何か言うた?」

「言うてへん」



同じスピードで歩くのに、違和感を感じてしまう。
やって、平次はいつもアタシの前を歩くから。


合わせてくれた歩幅、嬉しいような恥ずかしいような……




同じ歩幅で歩くことが当たり前になる時は、きっとこの関係が変わる時。

今は『ただの幼馴染み』。


2013/06/22
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