毎日は平和 Short | ナノ
体育着




雨の日、登校中に水をかけられてもうた。

傘差して、濡れへんように気ぃつけてたんやけど。


車が勢いよく通ったら、水たまりの水がちょうど跳ねてアタシの制服にくっついた。


「あ―…濡れてもうた」



アタシの都合なんかお構いなしに水たまりの泥水は思いっきりかかってくれて。

そんな日に限って、体育着を持ってなくて。




ポケットからハンカチを取り出し、顔にかかった泥水を拭う。
時間的にも家に引き返すことは出来ひんし、アタシはそのまま学校へと向かった。


「和葉、どうしたん?」
「大丈夫?」

アタシの泥水で汚れた制服を見て、友達が心配してくれる。





「ちょうど水たまりのところで車とすれ違ってもうて―「アホやなぁ」


「ちょお、アホってなんなんよ!」


後ろを振り返って言い返したら、平次がそこに立っとった。



「引き返すにも時間ないから引き返されへんかったんやろ。早う着替えな風邪引くで」


「そうやで、早う着替えて来たほうがええよ?」


平次は一言多いけど、友達もそう言ってくれる。



「それが―…」


『持ってないんよ』と言う前に平次の方が先に口を開く。



「持ってないんやろ、ほんまアホやなぁ自分」

「…なっ?!アホってなんなんよ!自分やって濡れてるくせに」


濡れている髪の毛を見れば誰だって分かる。
平次やって雨に濡れとるやないの。


「ほれ、これ着とけ」


教室で普通に体育着のTシャツ脱いでアタシに渡す。


「平次は?」

「ええねん、俺は」

「風邪引いてまうやん」


アタシがそう言うと、平次はまだ随分と湿った自分のワイシャツに腕を通す。



「人の心配するより自分の心配せぇ。お前の方がよっぽど心配やわ、ええから着とけ」



そのかわりに平次はアタシからタオルを取って濡れている髪の毛を乾かす。



「ちょお、これ借りるで」



…借りてから「借りるで」って言うなんて遅いやん。



「ほれ、着替えてきぃ」


平次に背中を押されて頷いた。




「うん」




体育着に着替えると、アタシの左胸には『服部』の文字。

なんだか平次がすごく近くに居る気ぃして頬が赤く染まってもうた。







2012/06/29