アポトキシン4869の解毒剤が完成した。


彼にそのことを話したら、彼はきっとすぐに私の元に来るだろう。
この薬を飲むために…



そうすれば、彼は彼女の元へ帰る。
帰るべき場所へと帰っていく。



「…渡したくないなんて、私らしくないわね。」

私は自嘲的に呟いた。




けれど、彼の優しさに甘えてばかりはいられない。

彼は光…
表にいなければならない存在。

私は影…
裏にいなければならない存在。



そんな私が彼のことを裏にとどめて置く権限なんてない。

優しい彼のことだから、「お前も帝丹高校に来ればいいだろ?」と
言ってくれるかもしれない。



でもそれは、私も元の姿に戻って『宮野志保』という
罪を犯してしまった一人の女として生きていかなければならないということ…

それに…



「彼の傍に居たら、きっと蘭さんに迷惑がかかる…」



これ以上、彼のことを見てしまう前に
これ以上、彼の存在が私の中で大きくなってしまう前に…



「離れたほうがいい…」



私は自分に言い聞かせるようにそう言った。



携帯を手に持ち、電話をかける。

何回かのコール音のあと、いつもの声が聞こえてきた。




「もしもし、江戸川…「工藤くん?」」

「あ、灰原か?」



「解毒剤が出来たの。取りにきてちょうだい。」

「本当か?分かった!すぐに行く!!」




ツーツーツー…

あと十分もすれば彼は走って私の家に来るでしょうね。


携帯が切れたあと、面と向かって彼にいうことができない私は携帯を握りしめたまま言うことしか出来なかった。



「 You was always kind to me . 」

あなたはいつも私に優しかった。








※あとがき

切ない系でした。
コナンの優しさが、哀ちゃんにとっては辛いものなんです。
コナン=新一
新一は蘭の元へと帰っていくはずです。
また、高校生探偵として活躍するであろうコナン。
哀ちゃんは、未だに心の中ではアポトキシン4869を作ってしまったという罪悪感があるんです。
黒の組織からの呪縛から離れられない哀ちゃんでした。






2012/04/07
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