◎ 『 HELLO…GOOD BYE 』
「出逢いがあれば、必ず別れがある。それは、仕方のないことなんだ」
俺の父さんが言っていた。
まだ幼かった俺は、父さんのことはよく覚えていないけど…
そう言った言葉だけは何故か覚えていた。
…これは、俺に向けて言った言葉だったのか?
なぁ、父さん…教えてくれよ。
* * *
いつものように中森警部の罠を見破って楽々と宝石を頂戴し、あとは逃げるだけだった。
それだけだったのに…
俺が逃げようと確保していた部屋へ入ると中にいたのは青子だった。
「キッドさん、こんばんは」
笑顔で出迎えた青子の考えていることはさっぱり分からなかった。
「キッドは青子のこと知ってるんでしょ?」
「…こんばんは。お嬢さん」
質問には答えず、様子を伺うようにいつも通りを心がけながら深くお辞儀をしたつもりだった。
「あ…」
顔を隠すためにいつも被っているシルクハットが床へと落ちた。
月明かりに照らされた部屋で二人。
モノクル越しに青子と目があった。
「…な…んで?」
青子は悲しみを含んだ目で俺を見つめる。
こんな目で青子に見つめられたのは初めてだった。
「―…。」
俺は落ちたシルクハットを拾い、それをかぶり直した。
「キッドは青子のこと、知ってたんだね…」
「…いいえ、初めましてですよ。お嬢さん」
そんな嘘、もう通じる訳ないってことくらい自分でも分かってる。
「…知ってたんだね」
青子は俺から目を逸らさなかった。
出来るなら、俺がキッドをやめるまで青子だけは…
青子にだけは知られたくなかった。
なんとしてでも隠し通したかった。
嘘をついているのなら、最後まで嘘をついていてやりたかった…
キッドと青子の出逢い。
それは、黒羽快斗と中森青子の別れ…
「…ごめん」
俺は青子の手のひらに盗んだ宝石を握らせて
開いた窓から夜空へと飛び立った。
出逢いによって生まれる別れほどつらいものなんかない
だったら俺は出逢いなんかなくていい
別れなんて嫌いだ
2012/04/01
あとがき
春は出逢いと別れの季節。
離れたくない人と離れなければいけない時って、悲しいですよね。
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