「おはようございます。今日もいいお天気でございますよ?」
影山に起こされて私は目を覚ます。
カーテンの隙間から射し込んでくる朝日が温かくて心が和む。
「おはよう。ほんと、今日はいい天気ね。」
挨拶を返して私は微笑んでみせた。
「お嬢様…そのようにのろのろとゆっくりしていても宜しいのでございますか?」
影山は左腕にしてある腕時計と私の部屋にある時計を見比べながら言う。
「のろのろと…ってねぇ…影山っ?」
気分の良い朝だったはずが、影山のせいで台無し…
少しイラついた私は起こり気味で影山の名前を呼んだ!…のだが。
―『八時五十分―…』
「は…八時五十分?!」
十秒前の眠かった私はどこかへ飛んでいった。
まずい…遅刻だ。
私はこの危機的状況から抜け出そうとお嬢様の特権と力をつかって叫んだ。
「車を用意して!!今すぐよ!!」
「承知致しました。」
影山はさっと身を返して部屋から出て行く。
私もぼーっとしていないで洋服を持っていかなくちゃ!
影山の用意したリムジンに乗り、広い車内で手早く着替えた。
「影山!髪型変じゃない?大丈夫?」
ミラー越しに影山は私の髪型を確かめる。
「今日もお綺麗でございます。お嬢様。」
当たり障りのない褒め言葉を私にかけた影山は視線を元へと戻し、運転に専念している。
「影山っ!捕まらない程度にブッ飛ばして!!遅刻なんて絶対にダメよ!!」
そんな私の無茶なお願いにも影山は
銀縁の眼鏡を人差し指で軽く押し上げ「かしこまりました。お嬢様。」と静かに言った。
さっきよりもアクセルを少しだけ強く踏み、リムジンは加速する。
* * *
「お嬢様そろそろでございます。」
影山がそう言ったのは八時五十七分。
なんとか…間に合ったではないか。
「いいわ、ここで降ろしてちょうだい。」
「かしこまりました。」
住宅街にリムジンがとまり、影山はドアを開けた。
「いってらっしゃいませ。」
「あ…ありがとう…」
私がお礼を言ったあと、影山がわずかに微笑んだ気がしたのは気のせいだったのだろうか?
まぁいいわ。
たまには影山にも素直にお礼しなくちゃね。
今日、仕事が終わったらケーキでも買って行ってあげようかしら。
ティータイム用のクッキーとか?
影山に渡したら…一体どんな顔するのかしらね?
2011/12/14