目を開けると、そこは保健室のベッド。
「気がついた?」
彼がそこに居た。
* * *
朝、家に迎えに行った時から少し体調が悪そうだった。
なのにアイツは何も言わず、体育まで出やがった。
見学して休んでればいいのに。
よりによって今日は外での体育だし、女子は1000m走だし。
俺も外で体育だから、様子は見れる。
だからと言って、ずっとアイツの傍についてやることは出来ない。
「よーい」
パンッ!
一斉にトラックの周りを走り始めた女子。
二周目終わりから、アイツの走るスピードが遅くなる。
「男子、集合!」
様子を見ていたいのに、先生から集合の号令がかかる。
「…はい」
先生が話をしている時も、目は常にアイツを追っていた。
残り二周。
(…このままゴールできればいいけど)
「じゃあ、俺は今から出張だから後は自由にしてくれ!」
先生が出張に向かってすぐ、俺はまたアイツを見る。
アイツはさっきよりも走るスピードを落とし、ゆっくりと歩くようなペースになっていた。
「真稀!」
俺は真稀に走りよる。
次の瞬間、アイツは立ち止まると足に力が入らなくなったのか、かくっと座り込むように倒れた。
間一髪で真稀は俺の腕の中に倒れ込む。
「おい、真稀!」
俺が呼び掛けても、ぼーっとしている。
「…はぁっ…はぁ…はぁっ…」
肩で息をしているし、顔は赤い。
熱中症かもしれない。
「真稀ちゃん!」
「大丈夫か?!」
友達と先生が倒れた真稀を心配して、駆け寄ってきた。
女子の体育を担当するのは男の先生で真稀を運ぶことは可能だったのだが、他の男に真稀をとられるような気がして、俺は授業を放棄した。
「俺が行きます」
先生が何かをいう時間さえも与えず俺は腕の中の真稀を抱き上げ、保健室へと向かった。
ベッドに寝かせ、氷水を額にあてる。
「真稀、大丈夫か?」
苦しそうな真稀の手を握り、回復を願った。
* * *
そうだ、わたし倒れたんだっけ。朝はそんなに体調も悪くなかったのに…
「軽い熱中症だってさ」
彼に握られている手を見てドキドキする。
「ずっと…居てくれたの?」
また突き放されるって分かってるけれど、聞いてしまう。
「…そんな調子悪そうだと普通気になるし」
思いがけない返事に嬉しくなった。
「…ありがとう///」
「なんでお礼?」
「だって嬉しいから」
「お前って本当に意味分かんね」
でも、やっぱり優しいんだ。
「ったく…あんまり心配かけんなよ」
彼がわたしを心配してくれていたってことを知り、嬉しくなった。
「あぁ〜…俺ちょっと寝るわ」
そう言ってわたしの寝ているベッドの横で椅子に座ったまま寝てしまった。
―…わたしの手を握りしめたまま
ちょっと嬉しい時間。
この時間がもう少し続きますように。
そう願いながら、わたしも目を閉じた。
お題配布元『確かに恋だった』様
2012/05/27