俺には四つ下の弟がいる。
弟はずっと紗枝ちゃんのことを想い続けてた。
小さい頃からの幼馴染みの紗枝ちゃんは、久しぶりに見たらすごく可愛かった。
そんな時、俺は彼女を作った。
紗枝ちゃんが俺のことを好きだってことは知っていたけど、彼女から告白されて別に断る理由もなかったから。
案の定、別に好きでもなかったしその子とはすぐに別れた。
「兄貴、なんで別れたの」
智祐に「別れた」って言った時、そう聞かれた。
「合わなかったんだよ、きっと」
俺がそう言ったら、「最初から付き合わなければよかったんだ。」って顔で睨まれた。
本人に自覚があるのかないのかは分からないが。
そのうちに、紗枝ちゃんと二人で話す機会があった。
「和駿さん、お久しぶりですね。」
「久しぶり、紗枝ちゃん可愛くなったね。」
「そんなぁ〜照れるじゃないですか///」
ただ、そんな他愛無い会話。
俺が智祐に気がついて「そんなところにいないでお前もこっち来いよ」って声をかけたら、智祐は何も言わずに黙ってその場を立ち去った。
俺と紗枝ちゃんが話してるのがそんなに気に食わなかったのか。
そうやって意地を張って、強がってないでちゃんと話したらいいのに。
ある日、俺が紗枝ちゃんの家に行った時。
おばさんが玄関の近くで倒れてて、俺はすぐに救急車を呼んだ。
紗枝ちゃんと、智祐の通う高校にも連絡して。
「あの…お母さんはっ?母は大丈夫なんですか?」
廊下で紗枝ちゃんの声がした。
俺も廊下へと向う。
「過労だよ。少し疲れていたようだ。今は安定しているし、ゆっくり寝れば疲れもとれるだろう」
「…そう…ですか。ありがとうございました…」
医者にそう告げられたのを聞くと、ぷつりと緊張の糸が切れたように紗枝ちゃんはよろけた。
近くにいた俺は紗枝ちゃんの体を支える。
「…っ…―…」
今にも泣きそうな紗枝ちゃんを見ていたら、無意識のうちに言っていた。
「いいよ。俺でいいなら、思いっきり泣いて」
そう言って間もなく、紗枝ちゃんは崩れるように泣いた。
まるで小さな子供のように俺にしがみつきながら。
「…不安だったよね。もう大丈夫だから」
紗枝ちゃんの泣き顔を隠し、泣き終わるまでずっとこうしていた。
* * *
そんなこともあったな、なんて思い出してふと笑みが毀れる。
「和駿、どうしたの?」
「いや、ある幼馴染みの二人を思い出してさ」
「そう、仲のいい二人なのね」
真っ白なウエディングドレスに包まれて、俺の妻は優しく微笑んだ。
「幸せにするよ」
そう言って、額にキスをする。
俺も弟みたいに一途に人を想い続けようって決めた。
「「「結婚、おめでとう!」」」
みんなに祝福されて、俺は結婚式をあげた。
「いくよ〜!」
俺の妻が投げたブーケは紗枝ちゃんの手の中に落ちた。
周りのみんなは拍手をして盛り上がる。
「次は、お前の番だな」
俺が智祐にそう言うと、智祐は紗枝ちゃんのほうを見た。
紗枝ちゃんも智祐のほうを見て、恥ずかしそうな幸せそうなそんな笑顔を浮かべた。
「なんだよ、二人とも幸せそうじゃん」
俺の心配なんて、もう二人には必要ないのかもな。
だって、二人のあんな笑顔見せつけられたらこっちだって幸せになってやろうって思うだろ。
ここまで来るのに回り道して、遠回りしてお互いから逃げて…
すごく時間がかかったのかもしれない。
でも…
幼馴染みのこの二人の絆はきっと、そう簡単には壊れない。
どこの誰が邪魔しようと、二人を離れさせようとしたって無理だ。
あとは…
お前の左胸ポケットに入っているその指輪を、紗枝ちゃんに渡す勇気を出すだけなんだけどな。
なぁ、智祐。
俺が知らないなんて思ったら大間違いだ。
お前はずっと紗枝ちゃんのことを見続けてきたのかもしれないが、俺は二人のことを見続けてきたんだからな。
「お前も…幸せになれよ」
2012/03/23
END