last up 2013/09/09


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○ずっときみの大切な幼馴染みでいること
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あれから随分と日が過ぎた。

俺も紗枝も大人になった。
高校生だった俺達もこの春に大学を卒業する。


珍しく郵便受けに手紙が入っているかと思えば
懐かしい名前で送られてきたのは同窓会の案内だった。




「紗枝は行くのか?」

「行くよ〜!みんなに会えるの楽しみだもん。智祐も行くんでしょ?」


「俺はどうしようか考えてたところ」



そう答えたら、紗枝は少し黙ってしまった。




「智祐、行かないの?」



俺の様子を伺っている、その仕草。
高校のときから何も変わらないな。




「何…行って欲しいわけ?」


ちょっと意地悪く聞いてみたら、案外素直に「…うん」って返事が返ってきて驚いた。



「行くよ、紗枝が行くなら」



俺が言ったら紗枝は嬉しそうに頷いた。





 * * *




同窓会。

寝坊してしまった俺は紗枝に置いていかれ、結局一人で同窓会に向かう。


「起こしてくれたっていいだろ…」なんて思いながら、同窓会が行われている会場へと入った。

入るのも躊躇ってしまうような会場。
結構広いパーティー会場のようなところを借りたようだ。


中へ入ると、誰より先に紗枝の姿が目に入った。



仲の良かった友人でも、懐かしい担任の先生でも、
同じ部活の奴らでもなく…


紗枝だった。



上でまとめた茶色の髪の毛、ドレス風のふんわりとしたワンピース。


俺は足を止め、見惚れてしまっていた。



そんなことをしていたら、走ってきた幼い子供が紗枝にぶつかった。



「わ〜い!」

「わっ!」



「おい、大丈夫か?よそ見してるとぶつかるぞ?」

俺は紗枝のよろけた体を支える。


「遅かったね」


俺には一言だけ。


「ごめんね。大丈夫?」

紗枝はすぐに俺と逆を向きぶつかってきた子供に目線を合わせ、しゃがむ。



「だいじょうぶだよ。ボクはつよいんだ!それよりボクこそ、ごめんなさい」



ぺこっと頭を下げて謝った子供に「大丈夫だよ。えらいね」って頭を撫でてあげていた。
その男の子も嬉しそう。


すると、その子の親だと思われる大人が二人近づいてきた。



「すみません、子供が…あれ?木村か?」

「…前田?久しぶりだな」



目の前にいる大柄な男。
同級生の前田だ。



「あぁ、本当だな!あれ?隣にいるのは小林か?」

「うん、久しぶりだね」



「お前ら、仲いいよな。高校のときからずっと一緒だろ」



「まぁ、赤ちゃんのときからの幼馴染みだからね」

紗枝はそう言うと、抱っこされている子供に視線を移した。




「あぁ、こいつ?こいつは俺の息子だよ」


「えぇ〜っ?」


「ほらこいつが俺の嫁さん。木村も小林も知ってんだろ?」

「旧姓は佐藤です。久しぶり、紗枝ちゃん」


「佐藤…佐藤…え〜っと…え…?もしかして、佐藤かえでちゃん?!」


「そう、わたし達ね結婚したの」



「えぇ〜!!?」



「そんなに驚くなよ、俺達だってもう高校生のときみたいに子供じゃねぇんだから」

「そ…そうだよね、結婚おめでとう」

「おう、ありがとよ。」




「パパ〜お腹すいた!」

「何か食うか。じゃあ、またな」


「おう、またな」
「うん、またね」




俺と紗枝は近くにあった椅子に座る。



「…なんか、みんな変わるんだね。大人になったっていうか…」

「あぁ、そうだな。まぁ、いつまでも変わらないなんてこと無理じゃないのか…?」


そう言ったら紗枝の頭が俺の肩にもたれかかった。
驚いて横を向いたら、気持ち良さそうに寝ている紗枝の寝顔があった。




「疲れて寝るとか…子供かよ」




そう悪口を言いながらも、俺はどこか幸せそうなこの寝顔が好きだった。


俺はこいつの笑顔が好きなんだ。

紗枝が笑顔でいてくれることが、一番だったんだ。
馬鹿みたいに一途に、高校生のときから想いつづけて…


兄貴には勝てないって、そう思ってた俺が
よく諦めないでここまで想い続けてきたなと自分でも思う。



ふと、視線を紗枝の顔に戻すと、幸せそうな寝顔が消えていた。
寂しそうな顔で、小さな子供が宝物のおもちゃを取られてしまうような…そんな顔。





「…智祐は…どこにも行かないでね‥わたしのこと…ひとりにしないでね」



どんな夢を見ているんだろう。
寝言にしても、どんなこと言ってんだコイツは。



…俺が君をひとりにするわけないのに。


俺こそ君に言いたい。




「お前こそ…どこにも行くなよ。」




できるならずっと俺の傍に居てほしい。





 * * *



目が覚めるとみんな居なかった。
どうやら俺も紗枝のことを悪く言えない。
俺も疲れて寝てしまったようだ。


「ようやく起きたか?みんな帰っちまったぞ」

話しかけて来たのは前田。



「そうか。」

「ちょっと前まで皆待ってたんだけどよ、お前らなかなか起きないからさ」

「悪いな、待ってて貰っちゃって。俺らも帰るよ」

「そうか、じゃあ俺らは先に帰るぞ」

「分かった。またな」

「おう」


最後まで待っていてくれた前田に礼を言い、俺はまだ起きない紗枝を起こす。




「おい、起きろ。みんな帰ったぞ?」

「ん〜…えっ?みんな帰っちゃったの?」

「紗枝が寝てる間にな」

「もっとみんなと話したかったのに〜」



紗枝は寝起きが悪い。
高校生の頃も子供のように駄々をこねては、よく俺は困らされていたものだ。


「また会えばいいだろ?」

なだめるように、言い聞かす。




「みんな…忙しいよ。」


「そんなことない。いつでも会えるだろ。」

「…みんな変わるんだよ」



「変わる…か。まぁ、変な寝言いってたしな。」

「…?!寝言…聞いたの?」

「そりゃあ、俺に寄りかかって寝られたら聞こえるだろ」

「…そ、そうだけど」





―「お前らは変わんねぇな」




そう言った同級生はもう結婚したって言ってた。


あの頃と変わらないようで、みんな少しずつ変わってんだ。



「なぁ紗枝」


「ん?」





「俺はいつまでもお前の傍にいてやるよ。変わらずにな」





紗枝は目を見開いて驚いていたけれど、嬉しそうな顔をして言ってくれた。




「……ありがと」



「どういたしまして」




幼馴染みの俺にできること



君をひとりにさせないこと。

君の隣にいること。



―ずっときみの大切な幼馴染みでいること。





END


お題配布元『確かに恋だった』様


2012/03/18


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