あれから随分と日が過ぎた。
俺も紗枝も大人になった。
高校生だった俺達もこの春に大学を卒業する。
珍しく郵便受けに手紙が入っているかと思えば
懐かしい名前で送られてきたのは同窓会の案内だった。
「紗枝は行くのか?」
「行くよ〜!みんなに会えるの楽しみだもん。智祐も行くんでしょ?」
「俺はどうしようか考えてたところ」
そう答えたら、紗枝は少し黙ってしまった。
「智祐、行かないの?」
俺の様子を伺っている、その仕草。
高校のときから何も変わらないな。
「何…行って欲しいわけ?」
ちょっと意地悪く聞いてみたら、案外素直に「…うん」って返事が返ってきて驚いた。
「行くよ、紗枝が行くなら」
俺が言ったら紗枝は嬉しそうに頷いた。
* * *
同窓会。
寝坊してしまった俺は紗枝に置いていかれ、結局一人で同窓会に向かう。
「起こしてくれたっていいだろ…」なんて思いながら、同窓会が行われている会場へと入った。
入るのも躊躇ってしまうような会場。
結構広いパーティー会場のようなところを借りたようだ。
中へ入ると、誰より先に紗枝の姿が目に入った。
仲の良かった友人でも、懐かしい担任の先生でも、
同じ部活の奴らでもなく…
紗枝だった。
上でまとめた茶色の髪の毛、ドレス風のふんわりとしたワンピース。
俺は足を止め、見惚れてしまっていた。
そんなことをしていたら、走ってきた幼い子供が紗枝にぶつかった。
「わ〜い!」
「わっ!」
「おい、大丈夫か?よそ見してるとぶつかるぞ?」
俺は紗枝のよろけた体を支える。
「遅かったね」
俺には一言だけ。
「ごめんね。大丈夫?」
紗枝はすぐに俺と逆を向きぶつかってきた子供に目線を合わせ、しゃがむ。
「だいじょうぶだよ。ボクはつよいんだ!それよりボクこそ、ごめんなさい」
ぺこっと頭を下げて謝った子供に「大丈夫だよ。えらいね」って頭を撫でてあげていた。
その男の子も嬉しそう。
すると、その子の親だと思われる大人が二人近づいてきた。
「すみません、子供が…あれ?木村か?」
「…前田?久しぶりだな」
目の前にいる大柄な男。
同級生の前田だ。
「あぁ、本当だな!あれ?隣にいるのは小林か?」
「うん、久しぶりだね」
「お前ら、仲いいよな。高校のときからずっと一緒だろ」
「まぁ、赤ちゃんのときからの幼馴染みだからね」
紗枝はそう言うと、抱っこされている子供に視線を移した。
「あぁ、こいつ?こいつは俺の息子だよ」
「えぇ〜っ?」
「ほらこいつが俺の嫁さん。木村も小林も知ってんだろ?」
「旧姓は佐藤です。久しぶり、紗枝ちゃん」
「佐藤…佐藤…え〜っと…え…?もしかして、佐藤かえでちゃん?!」
「そう、わたし達ね結婚したの」
「えぇ〜!!?」
「そんなに驚くなよ、俺達だってもう高校生のときみたいに子供じゃねぇんだから」
「そ…そうだよね、結婚おめでとう」
「おう、ありがとよ。」
「パパ〜お腹すいた!」
「何か食うか。じゃあ、またな」
「おう、またな」
「うん、またね」
俺と紗枝は近くにあった椅子に座る。
「…なんか、みんな変わるんだね。大人になったっていうか…」
「あぁ、そうだな。まぁ、いつまでも変わらないなんてこと無理じゃないのか…?」
そう言ったら紗枝の頭が俺の肩にもたれかかった。
驚いて横を向いたら、気持ち良さそうに寝ている紗枝の寝顔があった。
「疲れて寝るとか…子供かよ」
そう悪口を言いながらも、俺はどこか幸せそうなこの寝顔が好きだった。
俺はこいつの笑顔が好きなんだ。
紗枝が笑顔でいてくれることが、一番だったんだ。
馬鹿みたいに一途に、高校生のときから想いつづけて…
兄貴には勝てないって、そう思ってた俺が
よく諦めないでここまで想い続けてきたなと自分でも思う。
ふと、視線を紗枝の顔に戻すと、幸せそうな寝顔が消えていた。
寂しそうな顔で、小さな子供が宝物のおもちゃを取られてしまうような…そんな顔。
「…智祐は…どこにも行かないでね‥わたしのこと…ひとりにしないでね」
どんな夢を見ているんだろう。
寝言にしても、どんなこと言ってんだコイツは。
…俺が君をひとりにするわけないのに。
俺こそ君に言いたい。
「お前こそ…どこにも行くなよ。」
できるならずっと俺の傍に居てほしい。
* * *
目が覚めるとみんな居なかった。
どうやら俺も紗枝のことを悪く言えない。
俺も疲れて寝てしまったようだ。
「ようやく起きたか?みんな帰っちまったぞ」
話しかけて来たのは前田。
「そうか。」
「ちょっと前まで皆待ってたんだけどよ、お前らなかなか起きないからさ」
「悪いな、待ってて貰っちゃって。俺らも帰るよ」
「そうか、じゃあ俺らは先に帰るぞ」
「分かった。またな」
「おう」
最後まで待っていてくれた前田に礼を言い、俺はまだ起きない紗枝を起こす。
「おい、起きろ。みんな帰ったぞ?」
「ん〜…えっ?みんな帰っちゃったの?」
「紗枝が寝てる間にな」
「もっとみんなと話したかったのに〜」
紗枝は寝起きが悪い。
高校生の頃も子供のように駄々をこねては、よく俺は困らされていたものだ。
「また会えばいいだろ?」
なだめるように、言い聞かす。
「みんな…忙しいよ。」
「そんなことない。いつでも会えるだろ。」
「…みんな変わるんだよ」
「変わる…か。まぁ、変な寝言いってたしな。」
「…?!寝言…聞いたの?」
「そりゃあ、俺に寄りかかって寝られたら聞こえるだろ」
「…そ、そうだけど」
―「お前らは変わんねぇな」
そう言った同級生はもう結婚したって言ってた。
あの頃と変わらないようで、みんな少しずつ変わってんだ。
「なぁ紗枝」
「ん?」
「俺はいつまでもお前の傍にいてやるよ。変わらずにな」
紗枝は目を見開いて驚いていたけれど、嬉しそうな顔をして言ってくれた。
「……ありがと」
「どういたしまして」
幼馴染みの俺にできること
君をひとりにさせないこと。
君の隣にいること。
―ずっときみの大切な幼馴染みでいること。
END
お題配布元『確かに恋だった』様
2012/03/18