兄貴に彼女が出来た。
紗枝の片思いの相手、兄貴に―…
* * *
今日、学校で出された宿題を解きながら紗枝のことを考えていた。
頭の中を占めるのはほとんどが君のことで手に持ったシャーペンの動きは悪かった。
「お兄さん…彼女できたんだってね。」
どこから聞いた情報なのか分からなかったが、この話は噂なんかじゃなく本当の話。
ここで俺が嘘をついても何の得もない。
紗枝の悲しむ顔が目にみえたが、俺は頷くことしか出来なかった。
「…うん。」
俺にとっては好都合だった。
「なんで教えてくれなかったの…」
案の定言われたその言葉。
「…言ったら傷ついただろ。」
それもある。
確かに紗枝の悲しむ顔なんか見たくなかった。
「分かってないよ!!なにも…智祐はわたしのこと…なにも分かってない。」
紗枝が俺の背中に頭をつけて、静かに泣く。
俺の背中にある重さ。
すごく軽くて、まるで消えてしまいそうでこわかった。
「言って欲しかったよ…」
―『ごめん。』
音にならない謝罪の言葉は消えてなくなり、そのかわりに俺はきつく手を握りしめた。
「わたし、ばかみたいだよ…無理だなんて最初から分かってたつもりなのにね…」
静まり返った部屋に、雨の音だけが静かに響く。
「俺の方が馬鹿だから…」
紗枝の恋は叶うかもしれない。なんて、君に言うことは出来なかったけれど…
君より俺の方が馬鹿だから。
馬鹿な俺は君に叶わない恋をする
お題配布元『確かに恋だった』様
2012/02/18