ずっと見てきた。
幼馴染みの君の恋を。
幼い頃から俺は君を見てた。
君は俺じゃない人を見てた。
俺の兄貴のことを。
兄貴には敵わないって…幼いながらにそう思ってた自分は弱虫だった。
* * *
「智祐、おはよう。」
珍しく朝早く学校に登校したら、教室に紗枝が居た。
少しだけウェーブのかかった癖のある長い髪の毛を後ろで縛っている途中だった。
「おはよ。」
髪の毛を縛り終えた紗枝は、朝のまだ寒い教室でカイロを片手に俺に尋ねる。
「智祐は好きな人とか居るの?」
「いない。」
咄嗟に否定すると「嘘だ〜ぁ、絶対いるよ。『います。』って顔してるって。」って紗枝は俺を疑った。
「いないって。」
面と向かって言えなかった俺は、後ろを向いてそう言った。
「そう?」
「うん、そう。」
紗枝がそれ以上聞いてこなかったのが、せめてもの救い。
「そういう紗枝はどうなんだよ?」
沈黙に耐えられずに聞きたくもない質問をしてしまった俺は聞いてから後悔した。
紗枝の好きな奴くらい知ってるのに。
ずっと見てたんだ。
君のことを見ていたんだから、分かるに決まってる。
「まぁ…好きな人は、いるかな。」
頬を少しだけ染めて、そう言った紗枝は可愛かった。
…なんで俺じゃなくて兄貴なんだよ。
よりによって兄貴って…
「…頑張れ。」
「ありがとう。」
『君の恋が叶わなければいい』なんて心で思う俺がいる。
俺の本音は君に言うことはできない…
お題配布元『確かに恋だった』様
2012/01/31