06
久しぶりに聞いた灰原の声は、相変わらず大人びた口調だった。
「電話してくるなんて…
コッチは朝の6時なんだから、もう少し考えて行動して。」
焦っている俺とは対照的に灰原の声は落ち着いている。
「わりぃ…でも、今かけなかったら俺…
絶対に後悔するって思ったからよ…頼むから場所を教えてくれ―…」
「え、今いる場所?はぁ、教えないって言ったでしょ。」
俺に呆れたのか、小さな溜息が聞こえた。
「私はあなたを死なせたくない。死ぬのは私だけでいいの。もういい?切るわよ。」
「駄目に決まってんだろ!!
切るな!絶対に切るな!!切んじゃねーぞ!
お前が死んだら俺は自分で死ぬ―…それでも死ぬって言うのかよ!」
「そんな馬鹿げたこと言わないでちょうだい!!
あなたは死んでは駄目!言ったでしょ?!」
「絶対、助けに行ってやる!!
だから…!頼むから…居場所教えてくれ。
近くにお前がいる気がしてんだよ。
馬鹿だよな…お前は今、外国にいるってのに…
でも分かってくれ、お前の傍に行きたいんだ。」
…どうしても灰原の傍にいてやりたかった
あいつが、俺の手の届かないどこかへ行ってしまいそうな気がして―…
「…私は薬を作った。
そしてあなたの人生を狂わせたのよ。
あと、自分の人生も…。
自分の犯した失敗は自分で尻拭いをしないと。
これは私の仕事なの。だから、あなたは来ないで。
来てはダメ。」
小さな声だった―。
「狂ってなんかねぇよ!!
俺の人生も
お前の人生も―っ!!
大丈夫だ、今からでも間に合う!!
俺らまだ…小学五年だろ?
戻らなくてもいい…
江戸川コナンと灰原哀として生きて行けば
昔のことは消せねえけど
これからのことは自分自信で変えられるんだよ!!
死んだら、それで終わりだろ?」
正直な気持ちだった。
工藤新一に戻りたい気持ちより
江戸川コナンとして、こいつの傍に居てやりたい。
ただ…それだけで良かった。
俺の自分勝手だってことくらい分かってる。
だからって自分の気持ちに嘘をついて生きていくようなことはしたくない。
「…っ…ぐすっ…」
受話器からは聞こえない誰かの泣き声が近くから聞こえる―…
「…?灰原…」
確かにアイツの声だった―。
2012/09/09