04
次の日、灰原からようやく連絡がきた―。
俺の携帯電話が鳴る。
「ごめんなさい。空港に来ていたから、電源を切っていたの。
でも…最後に、あなたの声が聞きたくなって―…」
「おまっ…やっぱり…行くのか?」
「…えぇ。行くわ。」
灰原の声は決心した声だった。
あんなに小さな体で、全部背負い込んでしまう覚悟を決めて。
「…俺の傍に居てくれねーか?俺、一日考えてみたんだけどよ…
やっぱり、お前が居ないのは考えられねーよ…
俺には…お前が必要なんだ。」
こんなこと言うなんて、かっこ悪いかもしれない。
でも、自分の大切な人を…今度こそ守り抜きたかった。
無茶なんかさせたくない。
「約束したでしょ?私と、あなたは…十年後あの場所でまた会う。
その前に言うなんてルール違反よ。」
「…っ…わりぃ…約束は、守らないとな…でもっ…!!」
「―…生きなさい!何がなんでも生きて!!」
電話越しに灰原の声がはっきりと聞こえる。
「どんなに汚くても…
どんなに見苦しくても 『生きて』…」
それは、俺に言い聞かせるように…
自分自身に言い聞かせるように、心の底からの言葉に感じた。
「生きて…あの得意げな顔で…また見事な推理を披露してよ、探偵さん。」
「俺は死なねぇよ。お前一人置いて、いなくなることなんて出来っかよ…」
な?心配すんな。
俺を誰だと思ってんだ?
『工藤新一』だろうと『江戸川コナン』だろうと俺はお前を一人にはしない。
絶対に―…
だから―…
「お前も生きてくれ…俺の為になんて、そんなこと言わない…
お前に為に『生きてくれ―』」
俺は思いのたけを全部ぶつけた。
「うん…約束よ。私も負けたりしないから―」
それがあいつと交わした最後の言葉だった―…
「さよなら」なんて言葉、お互い言わなかった。
何故なら十年後、俺達は必ず会う約束をしたから―…
2012/08/03