03
「ねぇ、工藤君。」
灰原の声に返事をする。
「なんだ?」
灰原から告げられた言葉は、俺が想像もしていなかったものだった。
「私ね…外国へ行くことになったわ。」
「え、なんで急に?」
かっこ悪いことに、そんな言葉しか出てこない。
俺の問いかけに困ったのか、言いにくそうに言葉を濁らせる。
「どうしたんだよ」と聞く俺に、灰原が漸く真実を告げた。
「…組織にばれたの、正体が―…」
「…え…」
電話越しに固まってしまった俺はしばらくの間、何も考えることが出来なかった。
そんな俺に灰原は続ける。
「居場所を突き止められるのも、時間の問題よ。
そうしたら、博士にも周りのみんなにも迷惑がかかるわ。
あなたにも危険な目にあわせたくない…
だから―…私一人で行く。
あなたは…この場所で待っていてくれるかしら―…?」
「いきなりじゃないか!俺に相談もなしに、そんなこと決めんなよ!!
俺とお前は相談も出来ない仲かよ!!一言くらい…言ってくれよ…」
自分でも情けないと思う声だった。
「やっとお前への気持ちが分かったのに…こんなのってありかよ」
「…ごめんなさい。
こうする他に…どうしようもなかったの…
分かってちょうだい…
私だって出来ることなら、あなたと離れたくない。
でも、分かるでしょ?
相談する相手があなたでも、
出来ないくらい私が馬鹿な女だってこと―…」
ツー…ツー…ツー…
それから灰原からの連絡は途絶えた―。
携帯に電話をしても繋がらない。
博士の家に行っても、そこに灰原の姿はもうなかった。
2012/07/25