約束 | ナノ


 01



〜〜♪

携帯電話の着信音が鳴っている。


「もしもし?あ、灰原か?」

新一の携帯電話に電話してきたのは
同級生である『灰原 哀』。

同級生と言っても、こいつもアポトキシン4869で小さくなっている。
実際には俺よりも一つ年上であり、俺が小さくなる原因となった
アポトキシン4869の開発者でもある。


「ええ。私よ。コナン用の携帯に電話したのだけれど、蘭さんが出たわ。
こんなに遅い時間に小学生が電話するのも変だから、すぐに切ったけれど。」

「あぁ。今、蘭のやつに携帯を取り上げられてるんだよ。」

「何故?」

「お前が言った通りだよ。小学生が夜中に携帯をいつも使ってるからだ。
新しいメカが完成したとかなんとかで最近、博士から夜に電話がかかってくるんだよ。」

「それで、蘭さんに見つかってしまったって訳ね?」

「あぁ…まぁな。それで、なんだ?
こんな時間にお前が俺に電話してくるなんて、何か用でもあるんだろ?」


「えぇ。解毒剤の薬のことよ。」

「出来たのか?」

「まだよ。」




「新しい薬か…俺達いつまでこの体なんだ?一生…このままなんてことはないよな?」


「もし私が一生…薬を完成させなかったら、あなたも私も元には戻れない…

でも私は…それでもいいかもしれないわね…
私には、元に戻っても何もない。だったらこのままの生活を続けていたほうがマシ。」


灰原の顔は見えないが、自嘲的に笑う顔が目に浮かぶ。
そんなことを言う灰原に何もしてやれない俺は、自分の無力さが嫌になった。



「戻れなかったら、その時は―…
私をお嫁にもらってくれるかしら…?」


「え?」

「…冗談よ。そんな驚かないでくれるかしら?」


冗談なんかじゃない。
灰原のこの声、嘘をついているとは思えなかった。

俺は、灰原の力になりたかった。

最初は信じてすらいなかった。

組織から抜けてきたと言う女。
そんな奴、信用出来るはずがない。

それは、すぐに無くなった。
こんなにも人の気持ちを理解出来て、優しい奴なのに…
重い荷を一人で背負い続けている。

綺麗な心だと思った。
灰原を信用していなかった俺が、恥ずかしく思うほどに。

人を傷つけないように、自ら距離を置いて。
そんな生き方を変えてやりたかった。





「俺は…正直言ってそれでもいいと思う。
前々から思っていたんだ。
このまま戻らなくても、江戸川コナンとして生きていけば―…」



いつの間にか、灰原の存在は俺の中で大きくなっていた。



「駄目よ!!あなたは表舞台の人間よ。私はよくても、あなたは光の人間だもの。
あなたを戻すために薬は必ず作るわ。」


「そんなに大きな声出すなよ。」

「…ごめんなさい。」


こうやってまた、自分を犠牲にして生きていく。
灰原は自分の気持ちを押し隠して…そうやって生きていくつもりなんだ。


「あのさ。」

「何かしら?」



「もしこのまま体が戻らなくて…俺の気持ちが変わらなかったら…
十年後に…また‥この場所で告白してもいいか―?」


「え…?」



俺達の関係が変化して行く。



2012/07/03




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