09
―取引現場にて―
「…ここが取引現場なのか?」
「ええ。そうよ。」
薄暗い倉庫のような場所。
ほこりっぽく、蜘蛛の巣もあちらこちらに見える。
ほこりを被って置かれている物を見る限りでは、ここはもう使われていない廃工場のようだった。
「まだ来てねぇみたいだな…どうする?」
ジンとウォッカの姿は見えない。
辺りは静まり返っている。聞こえるのは俺達の会話だけ。
「まずは私が改良したこの薬を組織が作った薬と入れ替える必要があるわね…」
「そうだな。薬を飲んだ奴が幼児化するってことがバレたらまずいからな…」
「ええ…これは改良したから幼児化しないように出来てるわ。
でも…彼らが作ったものの作用は全く想像できない。
それが一番の不安よ…
データを取るために、一つだけでもサンプルが手に入れば…」
「まぁ…組織の奴らが来るまで俺達は何も出来ない。
ここで大人しく待ってるしかないみてぇだな…」
「え…ええ。そうね。」
そう言った灰原の手は震えていた。
「何震えてんだよ、お前…やっぱりこわいのか?」
「そんなこと―…」と言いかけて、灰原は俺を見た。
不安そうな目をして俺を見つめる。
「…こわいわよ」
珍しく素直だと思ったが、それは違った。
これから起きるであろう恐怖があまりにも大きいのだ。
どんなことが起きるのか全く分からない…
灰原だって普通の女の子だ。
俺はそんな灰原の手を握ってやった。
「大丈夫だ。俺がお前を守ってやっから…」
「ごめんなさい…今になって恐くなったの。
もし、失敗して組織にあなたを殺されたらって考えると
震えが止まらない…
もう、姉さんみたいに
大切な人をなくしたくない!!
組織に…
組織に大切な人を奪われたくないの―!!」
「灰原…」
「お願い…お願いだから生きて。死んだら許さないんだから」
「今さら何言ってんだ。死なねぇよ。俺もお前も―」
「私はあなたに命を預ける
だからあなたも私に命を預けて」
灰原の真剣な目にこたえるように言った。
「分かった。俺もお前に命を預ける。」
2012/10/08