ユメトビラ | ナノ

「 窓からの距離3メートル 」




それからは、必死になって勉強して。


でも、毎週土曜日の7時には風宮くんの笑い声がいつも聞こえて来た。



「あはははは!」

「めっちゃ面白い!」




…はぁ、先週注意したばっかりなのにな。


わたしはまた、風宮くんの携帯を鳴らす。


「〜♪〜〜♪♪」


「もしもし?」


風宮くんが電話に出て、すぐに一言。



「あの、五月蝿いんですけど」



「…あ、スマン」


テレビの音量が小さくなって、窓を開ける音がする。


スマン、スマンっていつも謝って。
でも、同じことを注意される。
楽しいのは分かるけどさ、わたしの勉強を邪魔しなくってもいいと思うんだよね。


「今日も勉強してたん?」


わたしも窓を開けて、電話を切って
ご近所迷惑にならない程度に喋る。



「まぁ、受験生ですから」


「そうやな、俺も必死になって勉強してた訳やし。」
そう言って風宮くんは笑うと「腹へらん?」と聞いてきた。


「確かに減ったかも;」



「そうやと思ったわ。俺も受験のときそうやったから」




そう言って差し出してくれたのはチョコレート。

うん、疲れはとれるし糖分取ると勉強はかどるんやけどね。
嬉しいんだけど、夜のチョコレートはニキビにつながるんだよ。

女の子には大敵なチョコレート。
美味しいから食べてしまう。


風宮くんは窓から身を乗り出してチョコレートを渡してくれようとするけど、
届きそうで…でも、それは中々届かない。


風宮くんは諦めて「行くで」と言ってチョコレートを投げる。
わたしはベッドの上に座ってそれをキャッチ。


「ありがとう」

ビターのチョコレートのはずなのに
いつもよりちょっと甘く思えて。


「美味いやろ、それ」


「俺も受験の時にな、食ってたんやで。
しかもな、このチョコレート食うても食うてもニキビ出きにくいねん」

なんだか得意げに説明する風宮くん。
友達に教えてもらったみたいやのに、
自分が見つけたかのように「すごいやろ〜」って言ってる。



「ありがとう、美味しいよ」

「良かった、また買ったらあげるわ」


「どうも」



* * *



そうしているうちに受験も本番。
今まで頑張ってきた訳やし、出せる力は全て出し切ったつもり。



そして、高校も卒業。
仲の良い友達と別れるのが辛くて、泣いちゃった。


時間が進むのは早くて、とうとう受験の合格発表の日になった。


合格していれば風宮くんと同じ大学に通えることになる。
風宮くんには言ってないけど、もし合格したら真っ先に報告しよう。




合否を確かめる時、手とか震えちゃって、もうドキドキだったけど…


わたしの番号…あった。



嬉しくて、一緒に受かった友達と抱き合って。
涙流して喜んで。



お母さんに電話して、「受かったよ」って報告した。




そして、夜7時。



いつも聞こえてくる風宮くんの笑い声が聞こえてこない。


「…いない…のかな?」


心配になって電話するのを躊躇ったけど、携帯を取り出して電話をかける。


「〜♪〜♪♪〜〜」




呼び出し音の三回目がなろうとした時


「ようやく電話してくれたな」


風宮くんの声が聞こえた。





「え?」


「楽しみにしててんで、俺。菜乃からの電話」


そう言われて、わたしからの電話を待っててくれたのかと期待してしまう。


「たまには俺にも頼ってええねんで」

そう言われて、頬に涙が伝っていた。

「なっ…泣いてるん?」


電話越しなのに、わたしの声の少しの変化で
わたしのことを分かってくれる。


何も言わないわたしに電話越しに「ちょお待っとき!」と
そう言って電話を切ると一分も経たないうちに家のインターホンが鳴った。

トントントンと階段を上る音が聞こえてきて、わたしの部屋の中に風宮くんが入って来た。



「お前はいつも、一人で抱え込みすぎやねん」


泣いている顔を見られたくなくて、顔を隠すと風宮くんはわたしを抱きしめた。


「見てへんし、これやったら見えへんから」


「…うん」


「呼んでくれればいつでも来るやん…、な?」

「うん…」




「わたし…合格したよ」


「合格おめでとさん」


「…ありがと」





「春から一緒の大学やな。」



何も言ってなかったのに。

風宮くんは知ってたんだね。



「うん、一緒」



窓からの距離、3メートル。

それは届きそうで…届かなくて。


でも、それは違っていた。



「呼んでくれたら行くやん、いつでも」


そう、手を伸ばして届かなくても
行けばいい。


いつだって会える。





「なぁ、俺…菜乃のこと好きやってん。
受験終わったし…付き合ってくれへん?」




「いいよ」




心の距離、0センチ。






2012/05/14


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