ユメトビラ | ナノ

「 窓からの距離3メートル 」





毎週土曜日、7時すぎ。
お隣りさんの2階から大きな笑い声が聞こえてきます。




『 窓からの距離3メートル 




「なんでやねん!あはは!なんやねんそれ!」

「……。」

わたしのお隣りさんは声が大きいです。

「あはは!ははは!」

高校三年のわたしの二個上の先輩。
つまり大学二年生。

お隣りさんとは家族ぐるみでも仲が良いのです。


そしてわたしは…そんなお隣りさんが好きだったりします。


いや…でも、

「あははははは!」




うるさい!!


ずっと笑ってるやん!
アンタは笑い袋かっちゅーねん!!



ご近所迷惑やろ、これ。






迷惑やって言ってあげなアカンよね?

…注意するだけやし、電話したって…ええよね?



ピッ。


PLL―…PLL―…


ちょっとだけ緊張している自分が居る。

小学生の頃は、何も考えずに家に遊びに行ってたし
電話も、二人で居るんも平気やったのにな。


なんでこんなにドキドキせなアカンの。
なんか腹立つわ〜



「あ〜もしもし?」

そんなことを考えていると、受話器から大きな声が聞こえる。
笑ったあとの特有な気の抜けた声。


「もしもし風宮くん?」

「菜乃か、どうした?」


わたしと話をしている間にも後ろからはガヤガヤとテレビの音が聞こえる。



「あはははは!なんや、それ!!」


「今、何見てんの?」

「お笑い番組〜菜乃も見てみぃ。めっちゃ面白いで」



「へぇ、そんなに面白いの?」


風宮くんの笑い声につられて、そんなことを聞いてしまった。


「…そ、そうやなくて、風宮くん笑い声でかい!」


本来の電話の目的を思い出し、年上やけどしっかり注意。



「あ、ほんま?スマン。ごめんやで」

「近所迷惑やん」

「せやってこれ、ホンマおもろいで?」


反省の様子…なし。



「…わたし、受験生なんですけど」


そう言うと、悪いと思ってくれたのか
「それはスマン」と謝った。




「でもなたまには息抜きも必要やで。
あんまり気張りすぎるんもアカンからな。体、壊すんやないで?」


そう心配してくれる優しさが、風宮くんらしい。


「あ…うん。心配してくれてありがとうね。」



お礼を言うと、「ええねん、そんなこと」と言って
風宮くんは笑った。


「ほな、勉強頑張ってな。」


わたしのことを気遣ってくれる優しさ。
これはずっと前から変わらない。


「うん、ありがとう」


「じゃあね」と言って電話を切る。
今までうるさかった隣の家が急に静かになった。



「…。」


コンコン。


「…?」



コンコンコン。


窓を叩く音。



閉めていたカーテンを開けて、外を覗き込むと
そこには風宮くんが立っていた。


何かのノートに大きく書かれた文字。


『受験、頑張れ!応援してんで』



その紙を持ってにっと笑う風宮くんは、
ガッツポーズでわたしにエールを送ってくれている。


もう大人なのに、やることは子供っぽい。


なんだか笑いが込み上げてきて、わたしも風宮くんに笑い返すと
風宮くんはまた嬉しそうに笑った。




prev / next