ユメトビラ | ナノ

「 窓側最後列 」 前編




「離れるん嫌や〜…裕」


『 窓側最後列 




真ん中最前列。
私の席の隣は裕です。

黒板の前、すっごくラッキーや!


って勉強をしたいからとかではなく…
裕が席の隣だからという訳でもなく…



「おい、菜乃。ぼ〜っとしてへんでしっかり授業受けるんやで」

「すいません、寝てません。寝てませんよ〜…」



咲斗先生がよく見えるから。



〜♪〜〜♪〜〜〜

キーンコーンカーンコーン―…



「授業はここまで。」

「起立!」


号令がかかって起立しても、礼の掛け声がかからない。


「―…。」


隣を見ると、ぐっすりと眠る菜乃の顔。


「菜乃、授業終わりやで。」

声をかけても起きる気配はなく…



「早う起きんと怒るで?菜乃!」

少し大きな声で言って、背中を軽く叩く。


「んん〜?どうした、裕?」



菜乃が授業中に寝るなんて珍しい。
しかもそれが風宮先生の授業なんて。

…今まで一度もなかったはずやのに。



「どうした?やないで!早う立って!授業は終わりや!!」

「えっ?う、うん。」


「礼!」

「「ありがとうございました。」」



* * *



あぁ…やってもうた。
咲斗先生の授業があるから昨日、必死になって予習してたら
遅くまでかかっちゃって寝不足やったんやっけ。



(咲斗先生に呼び出しされてまうな…)


じっと目が合って、そう思っていると
教室から出て行く前に咲斗先生が呼んだのは私の名前じゃなかった。



「木野、あとで職員室来いよ〜」


「え?!お、俺?」



裕は思いがけなかったらしく、横で驚いている。
実際、もっと驚いているのは私。


「呼び出し…されなかった。」

「なんで俺やの?俺、寝てへんで!」


怒られないのは「ちょっとラッキーやな。」
なんて思いながらも、なんで呼ばれたのが裕なの?
不思議やなぁ。




「ほな…職員室行ってくるわ」

「うん、いってらっしゃい」





* * *



少しして、裕は教室へ戻ってきた。


「俺、風宮先生に色々聞かれてんで?
わざわざ理科室に移動して一対一での質問攻めとかほんま、疲れたわ〜
何の夢見てたん?」

「夢?あぁ、授業中に見たで」



「なんで得意げな顔しとんねん!」って裕に言われ
「ごめん」と謝ってから質問に答える。




「席替えして、窓側最後列になる夢やねん」


「…席替え?」


「うん、席替え。」


「…わからへん。なんでや?」


裕は自分の席に座りながら、大げさに頭を抱え込む。


「どうしたん?」


「なんでそこで俺が出てくんねん…」


「裕が?」


夢の中に裕なんて出てきたっけな?と考えていると
裕は説明してくれた。


「風宮先生がな、菜乃の寝言聞いたんやって。
俺の名前呼んでたらしいねんけど。なんで?分からへんねんけど…」



(顔近い!)「顔近い!」


「あ、ごめん」


あれ?心の声が出てたみたい(笑



答えない私が悪いのに、裕に謝らせてもうた。
ごめんな、裕。


「席が咲斗先生と離れてまうやん?
…多分裕に相談してたんやと思う」


素直に裕の質問に答えるが、
それでも裕は分からないみたい。



「夢の中で?」

「…うん」



頷いたら、今度は真剣な顔して裕が言った。


「俺、風宮先生に二人は付き合ってんのかって聞かれてん」



咲斗先生がそんなこと聞くなんて、驚いたけど
それよりも裕がなんて答えたのかが気になった。



「それで、何て言ったん?」


「『本人に聞いたらええやん。』って言うたで。」


「えぇっ?!」

そう言った私の声は大きかったようで、クラスの大半の人が私のほうを向いた。

それなのにこの人は、こんなことを言う。


「そんなに驚かんでもええやん。」




裕はにこっと笑顔。



「俺えらいやろ、話すきっかけ作ってあげたんやで」


「そんなん言われても無理やって!緊張して何も喋られへんって!」



私の意見まるで無視の裕は、
「大丈夫やって〜」なんて笑顔で言ってる。



「上坂〜。今すぐ理科室来いよ〜」

咲斗先生の放送での呼出し…



「ど…どないしよ。裕…」

「頑張りや」

「…裕のアホ」

笑顔で手を振る裕を睨みつけてから
私は一人、理科室へと向かう。







「し…失礼しまぁす」








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