「いたくない…俺を信じて」
一瞬、時間が止まってしまったのではないかと思う程しんと部屋が静まり返った。
彼は目を見開き、驚いていたがはっと我に返り大声で言った。
「考え直してくれ!…一回だけやないんやで!一度吸ったら何回も何回も菜乃の血を…菜乃を、壊してしまうかもしれんって言うてんねん!」
咲斗はわたしの両腕を掴み、怒鳴るように言った。
「それで咲斗が助かるなら、わたしは構わない」
それでも、わたしの決意は変わらない。
すると急に腕を掴む力が弱まり、小さな声が言った。
「頼むから、自分のこと大事にしぃや…」
わたしの目を見て訴える。
「大丈夫、だってこんなにわたしのことを考えてくれてる咲斗だもん」
「……せやけど、」
「わたしは咲斗を信じてる」
そう言ったわたしに咲斗も納得してくれた様だった。
「ごめん、ごめんな…」
何回も謝りながら、咲斗はわたしをベッドに座らせた。
「ええんやな、ホンマに」
「うん、」
押し倒されて、ベッドに横になる。
咲斗の手が優しく髪の毛を撫でる。
「…怖く、ないんか?」
電気を消した暗い部屋がわたしの不安を起こした。
「やっぱり…ちょっとは怖いよ」
ギュッと目を閉じて咲斗の首に腕を回す。
「…スマンな」
「俺も人間に生まれられたら良かったわ…」なんて彼が言うから、回した腕に力を込めて抱きしめた。
「…絶対痛い思いなんかさせへん、俺を信じて」
「うん…」
満月の夜、妖しく赤く光る月と静寂がわたしたち二人を包み込んだ。
END
2013/02/01
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