ユメトビラ | ナノ

「たくさんの愛を」


 
 
彼は冬の寒い日の夜しか手を繋いでくれなかった。
それも外のデート。
 
それは全部、冷たい体温を隠すためだったんだ。
 
 
「だから手繋ぐの嫌がってたんだ…」
 
 
ようやく分かった真実。
 
 
 
「…バレる思ってん、俺が普通と違うってこと」
 
 
彼は寂しそうな表情をわたしに向けた。
 
 
「ホンマは手も繋ぎたかったし、もっと抱きしめたり、菜乃に触れたかった。せやけど…バレる思たら出来ひんかった」
 
 
「でも、」と言いかけて彼は止まる。
 
 
言いにくいのか、わたしから目を逸らして下を向いた。
 
 
 
「真実を知ったら…菜乃が離れてく気がして…ずっと隠しててごめん」
 
 
「ねぇ…咲斗ちゃん」
 
 
「…ええよ、無理せんでも。怖いやんな、バンパイアとか…血を吸うとか言われたら…怖いやんな」
 
彼は謝り、わたしから離れる。
 
 
「別れて欲しいって言われても仕方ないって思ってる…」
 
 
ぽつりと小さな声は今にも消えて無くなりそうだった。
 
 
「咲斗ちゃん…」
 
わたしは自分から咲斗ちゃんに近づく。
 
 
「待って、」と言い終わる前にわたしは咲斗ちゃんに言う。
 
 
「怖くないよ、咲斗ちゃんは咲斗ちゃんだもん。わたしは咲斗ちゃんが好きなの」
 
「…菜乃」
 
まだ不安そうな彼。
わたしが彼を大好きな証拠が少しでも伝わればいいなと思った。
 
 
「ね、抱きしめて」
 
「…ええ、の?」
 
「うん、わたしは咲斗ちゃんと別れたりしない。大好きだから」
 
 
 
 
「俺も…めっちゃ好き」
 
 
 
抱きしめてくれた彼はやっぱり冷たかった。
冷たい唇が優しく触れた。
 
 
「…愛してる」
 
 
たくさんの愛をあなたに。
 

2013/01/22

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