「しずかな部屋」
わたしが泣き止んだのを確認した咲斗ちゃんは言った。
「俺な…人間やないねん」
「人間じゃないって…そんな冗談やめて!ちゃんと話してよ!」
「せやな、そんなこと急に言われても信じられる訳ないよな…」
そう言ってわたしの顔を見る咲斗ちゃんの目は、凄く悲しそうな目だった。
「嘘だよ…」
「…。」
「嘘…だよね?」
「ホンマはこんなん…菜乃に見せたくなかってんけど…」
そう言って咲斗ちゃんはキッチンへ行き、果物ナイフを手に取り戻ってきた。
「咲斗ちゃん…?」
彼は腕を捲り、ナイフを自分の腕に向けた。
「やめてっ!駄目っ…!そんなことしないで!」
慌てて止めるわたしに「大丈夫やから」と悲しそうに笑う。
「見てて」
彼は一瞬目を瞑り、ナイフで自分の腕を切った。
「咲斗ちゃんっ…!」
叫んでから、わたしは自分の目を疑った。
赤い血が出た彼の腕の傷は次第にふさがっていく。
その傷はほんの十数秒で跡形もなく綺麗に消えた。
「…咲斗、ちゃん」
「信じられへんかもしれんけど、これが俺やねん」
彼はわたしに全部話してくれた。
彼はバンパイアで、人の血を吸って生きて行かねばならないこと。
バンパイアは人より体温が低く、氷のようだということ。
血を吸うことで治癒が人間の何倍も早いこと。
血は彼らの命であり、永遠の命を手に出来る。
だが、裏をかえせば血を吸うこと以外に生きる道はないと言うことだ。
「咲斗ちゃん…」
わたしに見せたくなかったのに、咲斗ちゃんはわたしと向き合うために自分を傷つけた。
「こんな痛々しいもん見せて…ごめんやで」
こんな時までわたしのことを考えてくれる。
きっと、見える傷なんかより痛い傷が彼の心を苦しめている。
二人きりの部屋が、とても静かに感じた。
2013/01/13
prev / next