「こわしたくない」
私たちを引き離すもの…
それは…彼から告げられた一言の言葉だった。
「咲斗ちゃん」
「…ん?」
「大好きっ」
「……ん、…おおきに」
いつもの君じゃない。
どこか体調が悪いのか、顔色も良くない。
「どうしたの?」
「…なんでもないで」
そう言っても顔色は優れない。むしろさっきより具合も悪そう。
「ちょっとごめんね」
「ちょっ、なに…?」
わたしは咲斗ちゃんの額を触る。
頬が赤くなってきたから熱が出たのではないかと思って。
「ちょっ…なにすんねん!やめぇっ…!」
彼は怖い顔してわたしを睨んだ。優しい彼からは想像出来ない顔。
「…冷たい」
「……」
氷のように冷たくて、まるで血が通ってない人間みたいに思えた。
「咲斗…ちゃん、大丈夫?」
「触んなっ…!」
咲斗ちゃんはわたしの手を振り払い、その反動で突き飛ばされた。
「痛っ…」
「…!菜乃っ!」
頭を壁に打ち付けて、痛みが走る。
「ごめん…ホンマごめん…」
咲斗ちゃんがわたしに駆け寄る。居るのが分かるくらい近い距離にいるのにわたしに触れようとして手を止めた。
「…咲斗ちゃん、」
「アカン…俺、菜乃に触れられへん」
「なんで…?」
「壊してしまいそうやねん…菜乃のこと、大事にしたいのに壊してしまいそうやねん…」
顔を上げると優しそうに、でも寂しそうな咲斗ちゃんの顔がそこにあった。
「…別れよう」
残酷な言葉が耳に残った。
2012/12/16
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