ユメトビラ | ナノ

「 約束 」


「僕、婚約者居るんですよ〜」

「「えぇ〜っ?!」」



「なに、言うとんねん風宮。アホか!」

「嘘ちゃうよ〜、ホンマの話。」



バラエティー番組に出ているこの人とは、
幼い頃に出会いました。


「婚約者…居るんだ」


まぁ、かっこいいし
彼女さんや婚約者くらい居てもおかしくないよね。




『 束 



隣に引っ越してきたお兄ちゃんは
私より10歳年上でした。


「ねぇお兄ちゃん」

「ん、なに?俺、お兄ちゃんなんや。
まぁ、そうやな。10歳も離れてるんやしな〜」


「お兄ちゃんはどうしてそんなへんな話し方なの?」


「変?あぁ、そうやな。でもこれは、変とちゃうんやで?
関西弁って言うねん。」



「…かいさ…べん?」


「ちゃうちゃう、関西弁やで」

「かんさい…べん?」



「そうやで、う〜んとなぁ。日本語にもたくさん種類があんねん。
方言って言うんやで。」


「…?」



「まだ、菜乃には難しかったか(笑」


「ねぇ、お兄ちゃん」


「ん、なに〜?」

「菜乃ね、お兄ちゃんのこと好き〜!」


「なんや俺、告白されたん?」




「おっきくなったらお兄ちゃんとけっこんする〜!
およめさんにしてね」


「おぉ、もう結婚の話なん?おう、ええで。
菜乃が美人さんになったらおよめさんに貰いに来るわ。
待っとってな?」



「うんっ!」


そんな話をしてた一ヵ月後、
お隣さんの咲斗にぃは大阪へと引っ越して行った。

* * *





「…って言うたん忘れたなんて言わせへんで?」


10年ぶりの再会。
それなのにこの人は、ズカズカと私の部屋へと入ってきた。


…確かに、そりゃあ小さい頃に
そんなことを言ったような気もしないでもないけど。


だからって、五歳の子供の言ったことを本気にする人が
どこにいるのよ?



「菜乃、美人さんになったから迎えにきてあげたんやんかぁ」


咲斗にぃに会うのは10年ぶり。

アイドルとしてデビューして、今や人気者。


私も高校生になってアイドルに興味を持ち
咲斗にぃがアイドルだってことに気づいたんだけど。

他のメンバーさんもかっこいいけど
どうしても咲斗にぃしかかっこいいと思えなかった。



「菜乃?」


…こんな人を今でも好きだなんて、すごく悔しい。
くやしい…けど、好きなんだ。



「そういえばさ、なんで今日来たの?」


「明日誕生日やろ?祝いに来てあげてんで?
ほら俺、明日仕事やし今日しか来れへんかってん。
ごめんなぁ?」


「…べ、べつにいいよ。
それよりも遠いのに大阪から東京まできてくれてありがとう。
…嬉しい」


「喜んでもらえて俺も嬉しいわ」

「…うん、ありがとう」


素直になってそう言うと、咲斗にぃの笑顔が目の前にあって
私の頬は赤く染まる。



「あ、これプレゼント」


「開けてみて」と言われ、小さな箱を開ける。


「…ゆび…わ?」


そこにはキラキラと輝く指輪が入っていた。


「僕と、結婚して下さい」



「へ?えぇ〜?!む、無理だって!」


冗談だと思っていたのに、この人は私の薬指に指輪なんかはめている。



「私まだ15歳だし、10歳も離れてるし!咲斗にぃ仕事だってそうだし!
ファンの皆さんだって咲斗にぃにも少しくらいはいるでしょ?」


急すぎて、私の小さな頭は悲鳴をあげている。
ショート寸前。



「…少し?俺やって自慢やないけどたくさん居るわ。」

「す、すいません…」


…ってか、つっこむ所そこ?



「なんやの?謝らんでもええよ」

咲斗にぃは、にこっと笑った。





「結婚して下さい」

「…。」


五分間くらい、ずっとこの状態。





「自分からプロポーズしてたんに、俺のは断るん?」

そう言われると、言葉に詰まる。


「だって…あれは子供の時だし。」

「もう、俺のこと嫌い?」

「き…嫌いじゃないよ」

嫌いじゃないから困ってるんだよ。



「それやったら」

「無理!」


「なんで?」

「婚約者…居るって言ってたじゃん」


「あはは。見ててくれたんや?あの番組」

こっちは真剣に悩んでいるっていうのに…
咲斗にぃは笑っている。


「…うん」


「居るよ?婚約者」


やっぱり本人の口から直接聞くと、グサッとく―…

「あれ、菜乃のことやん」

「えっ…?ええっ?!」


驚きのあまり叫んじゃったよ!



「それとも、やっぱ嫌い?」


なんて子犬みたいな目で私を見る咲斗にぃ。
だから本音を言っちゃうんだ。


「…むしろ、ずっと…好きだったよ」



「…え、…ホンマ?」

「…うん///」


「ほな、結婚やって!俺、めっちゃ嬉しい!
ホンマはな、こんな強引に言うても駄目やって思っててん…
ホンマ、嬉しいわ///」


「え、ちょっと///でも、結婚は無理だよ!」


「なんで?俺のこと好きなんとちゃうの?」

「好き…だけど、親に話さなきゃ」

「あ、それ?お母さ〜ん、居てます?」

咲斗にぃは私のお母さんを呼ぶ。
下からお母さんが上がってきて、私の部屋の中へと入って来る。


「はいはい、咲斗くん。どうしたの?」


「俺、もう承諾もらいましたよね?」

咲斗にぃは私のお母さんに、そんなことをさらっと言う。


「はい、あげましたよ。」

お母さんまで笑顔。



「えっ、お母さん?」


「咲斗くんのこと、小さい頃からずっと好きって言ってたじゃない。」


「だってお父さんも!」

「お父さんにもさっき電話したで?
「よろしくお願いします」って言われた〜」

「…お父さんまで」


「ほな、ええやろ?」


「…う、うん?」



私の口〜!!
なんで返事なんかしたの?!


「やった、夢みたいや〜菜乃と結婚なんて」


「あ、でも私…15歳だよ?」


「せやから今日来てるんやん!明日16歳やろ?
菜乃の両親の承諾貰ったんやから明日、俺が婚姻届出しとくな?」


「…えぇ―っ!!?」




いや…ちょっと話が急すぎてついていけない…

うん、私は明日から咲斗にぃの奥さん?


「ほんま、夢みたいや」





こっちのセリフや―!!!


…上坂菜乃15歳。学生。

明日からアイドルの奥さんです。







2012/04/17

END





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