「 元気な派遣さん 」
大学卒業して就職。
同じように時間が過ぎていくだけの毎日だった。
『 元気な派遣さん 』
「この資料、5時の会議までに作っておいて」
「はい、分かりました」
会社の上司にこき使われて、誰にでも出来るような仕事をやらされて。
一人、膨大な資料の置いてある資料室で作業する。
広くて少し埃っぽい部屋で30部以上も資料作り。
「あぁ〜…疲れた」
作り終えた頃には会議の始まる10分前。
慌てて会議室に行って資料を並べると、上司達が入ってきた。
わたしはすぐさま会議室を後にする。
何故なら会社勤め二年目の社員がいるべき場所ではないから。
「失礼します」
わたしの所属する部署の他の人たちは会議に出席しているから、
部屋には一人。
疲れたわたしは上司達がいないのをいいことに
コーヒーを煎れて飲んだ。
たっぷりと砂糖を入れて、ミルクも入れる。
コーヒーというよりはミルクティーみたいな見た目だ。
「ふぅ〜…」
気を抜いてあくびを一つ。
「すいません、ちょっといいですか?」
「あっ、え?は、はい!」
あくびを見られてしまっただろうかと不安になりながらも営業スマイルに切り替える。
「企画部の部署ってここであってますかね?」
そう尋ねてきたのは誠実そうな男の人。
優しそうな人だ。
「あ、はい。何か御用でしょうか?只今、上の者は会議で席を外していますが用件を伝えておくことは出来ますので」
先方が来たのかと思ったわたしは応接室に通そうとするが、
男の人にとめられた。
「えっと…そうやなくて。今日から派遣された風宮です。」
笑顔でお辞儀してくれた風宮さん。
「あっ、そうなんですか?」
「うん、そうやねん」
「今、会議中なのであと30分もすれば皆さん来ると思いますよ」
「そう?じゃあここで待っててええのかな?」
「はい、そうして下さい」
自分の席に戻ろうとすると風宮さんが話しかけてきた。
「自己紹介してへんかったね、風宮咲斗28歳。今日からこの部署で働きます、派遣社員ですがよろしくお願いします!」
「あ…はい。」
テンションの高さについていけなくなりそうだ。
適当に返事でもして、会議が終わるまでいつものように寝てようかと思っていたのに…
「名前、聞いてもええ?」
「わたしですか?」
「うん、俺より下に見えるけど何歳?」
「普通、女の人に年齢聞きますか?」
ちょっと呆れてしまう。
「あ、ごめん!初対面やのに失礼やな、ごめん!」
慌てている風宮さんをみていたら何だか可笑しくなってくる。
「別に構いませんけど」
わたしが笑うと風宮さんはホッとした顔をする。
「24歳です、2年目なので」
「あ、やっぱり年下や!」
そんなに嬉しそうに言うものだから自分は幼く見えるのだろうかと考える。
「わたしってそんなに幼く見えますか?」
「いや、そういう意味とちゃうよ!えっと…名前なんやっけ?」
「上坂です」
「下の名前は?」
「菜乃です」
「菜乃ちゃん、可愛い子やなって思ったからさ」
そんなことを言われて、不覚にも胸がキュンとする。風宮さんみたいなかっこいい人ならこんなこと色々な人に言っているだろうに。
「嘘でも嬉しいですよ」
気にしてない様子を装い、言葉を返すと一瞬困ったような顔をした風宮さん。
何か言いたそうに口を開いたがガチャっと会議室のドアが開いて上司達が出てきたからわたしは上司の元へと向かった。
「今日から派遣された風宮さんです」
「あぁ、風宮山くんか。待っていたよ」
上司はわたしの後ろにいる風宮さんに声をかける。
笑顔で挨拶をした風宮さんは上司に呼ばれて会議室へと入って行った。
あぁ、わたしはこれでお役御免かぁ。
上司の態度もわたしとは全然違う。きっと、風宮さんって仕事出来る人なんだろう。
「上坂さん、さっきの人って誰?」
今まで喋ったことなんかほとんどない女の先輩。
風宮さんがかっこいいからわたしに聞いたんだろうな。
「派遣社員だそうです」
「そうなの?じゃあ今日からあんなかっこいい子と仕事が出来るのね」
先輩は高い声で喜び、化粧を直しに行った。
2012/10/27
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