ユメトビラ | ナノ

「 雨宿り、キミノカオ 」




梅雨です。
毎日、嫌というほど雨が降ってきます。

『 宿り、キミノカオ



わたしの通う高校には、ちょっぴり有名な先輩がいます。


二つ上の三年生。
近寄りがたいと言うか、近寄らせてくれないというか…
基本一匹狼みたいな人で。
一言で言ってしまえば「こわい」んです。


肩よりのびた髪の毛、Yシャツのかわりに
学ランの中には赤いシャツを着て。
ズボンにはいつもチェーンがさがってる。


とてもわたしには近づく勇気がありません。




実際、先輩が通れば周りは先輩のことを避けるし、
目も会わせようとしない。



「あ…」



そんな先輩が、今わたしの目の前にいます。




「…ちっ」

先輩は、雨が降ってきている空を見て、傘もささずに帰っていった。




(…こ、こわかった)



内心、こわくてこわくてどうしようかと思ったけれど
まずは一安心。

わたしも降ってくる雨にうんざりしながら傘をさして帰った。



帰り道、雨は段々強くなっていって
わたしは近くのケーキ屋さんで雨やどりをしていた。

店内には入らなかったけど、
「弱くなってから帰ればいいや」くらいの気持ちで。





「あ…」



反対側の歩道に先輩がいた。


…誰かと歩いてる?


あんなにこわいと評判の先輩が笑って、楽しそうに。
金髪で、女の子…みたいな小柄な人。


(…彼女さんかな?)




先輩に気をとられていたら、小さな犬が道路に飛びだしていった。



「だめっ…!」



そう叫んだときにはもう遅くて視界の悪い雨の日なのに、
車がスピードを出して走ってきた。



キィィィ――!!!






急ブレーキをかける音。
タイヤと道路の摩擦音で高い音が響く。


「いきなり飛び出して来て、危ねぇだろ!」



車の窓が開いて、運転手が怒鳴る。



「 うっさいわ!! 」


運転手に負けない大声が聞こえる。



「お前アホやろ、こっちは飛び出して来てもうた
このアホな犬を助けてんねん。
こんな雨で視界悪いっちゅーのにスピード出して。
事故でも起こしたらどないするつもりやねん!」


恐ろしい剣幕で運転手に説教をする。

さっきまで威勢の良かった運転手が
口をポカンと開けて呆然としている。



そして、

「すいません、でした」


そう一言謝ってから、ゆっくりと車を走らせて行った。




「なに見とんねん、ボケ」



気づくと先輩がわたしの前に来ていて。

うしろから彼女さんもやってきた。





2012/08/30

追加
2012/09/12

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