ユメトビラ | ナノ

「 どした? 」



月曜日の二時間目、わたしが屋上に行けばキミはそこに居る―。


『 した? 





わたしは何も言わずにキミの隣に腰をおろす。

すると、キミは横を向いていつもの言葉をわたしにくれる。


「どした?」


その三文字だけ。

他になにも言わないけれど、キミはいつも笑顔でわたしにその言葉をくれる。



わたしが辛い時、悲しい時、寂しい時―…

キミは全部分かったように、ただその三文字をくれて。




わたしはいつも泣きながらキミに話す。

キミは何も言ってはくれないけれど…
その時間に行けばいつも変わらずに、わたしより早く座ってて。


「うん、そうやな」って頷いて。


二時間目が終わるチャイムが鳴ると、わたしの頭をぽんって触って
何も言わずに帰っていってしまう。


そうすると、何だか全部どうでもいいことのように思えて
また一週間頑張らなって思えてくる。


他の人よりも少し明るい色の髪の毛に、左耳にあるピアス。
それがキミの特徴だった。


そのうち、キミに会うために月曜日の二時間目は授業をサボってた。


他の日にも会いたくなって、二時間目に屋上に行ってみたけれど
そこにキミの姿はなくて。




学年もクラスも名前すら知らない。

そんなキミのことが気になった。




「菜乃ちゃん、やろ?」


キミがわたしのことを知っていたなんて思いもしなかったから。
ドクンと心臓が跳ねた。

泣きたくないのに、涙が溢れて。


「キミの…名前は?」



尋ねてもキミは教えてくれなかった。
首を左右に振るだけで、いつもの笑顔のまま変わらずに。






―「彼女いるらしいよ、咲斗くん」

―「え?あの、ピアスしてるっていう…」



最悪のかたちでキミの名前を知ることになった。

あんなにもキミのことを知りたいって思ってたのに、
今は「知りたくなかった」なんて思っている。



(あぁ、勝手だな…わたし)


そう思っても、やっぱりキミの彼女が羨ましいと思ってしまう。






屋上に行ったらやっぱりキミがいた。


いつのもように隣に座る。


泣きそうになるのをこらえていると
「どした?」ってまた、その言葉をくれて。



「咲斗くん、」


わたしがキミの名前を呼ぶとキミは驚いた顔してわたしを見た。




最初で最後だった。

キミの名前を呼んだのも、キミがわたしの名前を呼んでくれたのも
たった一回。




「キミが―…」




( 好 き で し た )




声にならないその言葉と共に涙が溢れ出してくる。



今だってスキ。

どうしようもないくらい、キミの存在は大きくなってて。





でも、過去形なんだ。

届かないって、分かってるから。




キミは困ったような顔をしたけれど、

「ありがとう」


って言ってくれた。





声にならなかったわたしの気持ち、
キミはちゃんと受け取ってくれました。



手をのばしても届かないけれど、

いつだってキミはそこに居る。




いつだってわたしに言葉をくれる。










「どした?」







この言葉を言ってくれるキミが―






「…好きでした」












2012/08/02



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