06 こそばゆい距離「…久しぶり、やな」
一年前より少しだけ髪の毛も長く伸びている。
「髪、伸びたな」
そう言って一年ぶりに和葉の髪の毛に触れた。
「久しぶりやね…本当に。それはそうなんやけど…平次こそばゆい」
髪の毛を触られるのがそんなにこそばゆいのか、和葉は俺の手を止めようと持っていた荷物を下に置き俺へと手をのばしてきた。
それでもやめない俺に少し怒る。
「やめてって言うてるやん」
「あ…スマン」
面白がって、少し調子に乗りすぎた。
後悔しながら手を止める。
「別に…ええよ」
和葉は俺の気持ちを察したのか、それ以上怒った様子は見せなかった。
「それより平次、アタシどうすればええのん?」
「何がや?」
「さっきの新幹線が最終やったんよ」
幸い荷物は手に持っていた物だけだったようで、新幹線に置いて来てしまったという物は無さそうだ。
「俺の家に泊まっていけばええやん」
何の躊躇いも無く口から出た言葉。
今まではそれが当たり前で、そんなこと全く気にとめへんかった。
せやけどもう、俺も和葉もガキやない。
一歩一歩ではあるが大人へと近づいているのだ。
「うん、」と言わない和葉の態度に気付かされる。
「電話…そ、そや。電話すればええやろ。親父さんも俺やったら知ってる訳やし、昔から泊まりに来てたりしてたやろ?許してくれるんとちゃうか?」
俺はどうやら緊張すると口数が増えるらしい。
次々と出てくる言葉に自分でも驚く。
和葉に言う、というよりも自分自身に言い聞かせているような言葉。
大丈夫や、大丈夫や。そう言っているように思えた。
「う…うん、そうやね」
それでも曖昧な返事しかしない和葉に
「なんや、電話するんがこわいんか?せやったら俺がしたるわ」
と、無理に笑顔を作って言っていた。
2013/10/22
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