02 伝わったらええのに人ごみを掻き分け、和葉の近くへ行く。
「…和葉!!」
久しぶりに呼んだにもかかわらず、その名前はしっくりとくる。
左右に揺れていたしっぽが突然止まり、そして―…和葉が俺の方を向いた。
「…平次?」
見えなくなったしっぽとは逆に、あいつの顔が見えるようになる。
その顔は、一年前に見た幼さの残る顔ではなく、少し大人びた顔。
その大人びた顔に、俺は一年間という月日の長さをまざまざと感じさせられたのやった。
「平次…?」
和葉は俺の名前を呼ぶものの、俺に気づいている様子はない。
アイツは重そうな荷物を持ち直し、帰りの電車であろう新幹線へと歩いて行った。
俺はそんなアイツの後ろを追った。
せやけど、人が多くて思うようには前に進まれへん。
ゆっくりとだが和葉との距離が離れていく。
それは、会わなかった日と同じ分だけ離れていくようで…
何とも妙に遣る瀬無い気分にさせられた。
和葉が新幹線に乗り込んだあと、発車音が流れる。
俺は閉まりかけた新幹線の扉に自分の手を突っ込んで、一人の手を掴み自分の方へと引き寄せた。
当然、引き寄せられたその人物からは驚きが伝わってくる。
「あの…どちら様で「…和葉。」」
和葉の声を遮り、名前を呼んだ。
俺の声に気づいているはずやのに和葉はちょっとだけ体を強張らせた。
「…。」
和葉は様子を伺うように俺の方を向いた。
少しだけ上目遣いで俺を見上げるから、不意にも内心ドキッとしてしまう。
そんな俺の内心とは裏腹に、和葉の声は落ち着いていた。
「…何で引きとめたん?」
久しぶりに聞いた幼馴染みの声は悲しみを帯びた声やった。
和葉を悲しませてきた原因はきっと俺。
でも―…
「俺…まだ間に合うか?」
和葉に会ったら、そう言わずにはいられなかった。
新幹線が出発し、一時的に少しだけではあるがホームから人が減った。
和葉は困ったように俺から目を逸らす。
本当の気持ちを隠すかのように目を伏せながら…
また、ホームに人が増えてきた。
こんな時間だというのに忙しなく人が行き来している。
「ごめん。」
俺の耳はその三文字をしっかりと聞いた。
もう…遅いっちゅーことは分かっとるつもりやった。
せやけど、和葉やったら俺のことを待っていてくれると、どこかで思っていた自分が居った。
そんな都合のいいことばかりではないのに、「和葉なら…」と変な自信を持っていた俺はただ自惚れていただけやった。
一年前、別れの時に自分の気持ちを伝えなかったことを今更になって悔やむ。
「最低やな…俺。」
繋いだままの手から俺の気持ちが伝わったらええのになんて、俺はいつからこんなに弱気な性格になったんやろ。
アホな自分が惨めで仕方ない。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか分からないが、和葉は「ごめん。」ともう一度言った。
2012/04/05
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