毎日は平和 | ナノ

 05 手放したらアカンもの


キィ―…

屋上のドアを開けると
隅っこの方で和葉が座っていた。



和葉は俺に気がつき顔を隠す。

「和葉…」


俺はなるべく優しく名前を呼んだ。

「…なによ。」


和葉は顔を隠したままそう言う。


「…スマンな。」


和葉の悲しそうな声を聞いた俺は謝らずにはいられなかった。


「なんのことか分からんもん。」



そりゃそーや。
謝った俺自身さえ、何が「スマン」なのか分からんのやから。



和葉は相変わらず顔を隠したまま…

どんな表情をしているのかさえ分からない。



「…スマン。」

俺はもう一度和葉に謝った。


「俺…事件が起きると、頭はそのことばっかりやから…
周りのこと、全然見れてへん…和葉んことも…」


ゆっくりと和葉に近づき髪の毛に触れる。


「…っ」


和葉はわずかに体を強張らせた。


「なぁ和葉。お前怒らせたん…やっぱり俺か?」


「…ちゃうよ。」

小さな声が俺に言う。


「お願いやから…時間が欲しいんよ。
アタシが勝手に怒ってるだけやから…アタシに構わんといて…?」



「構うなって…和葉…なんやねん…それ―…」


「…お願いやから…」


「あー…分かったで。俺と一緒に居たないんやな。
行けばええんやろ?」


「…ごめん、平次…」


ほんまに俺と一緒に居たないんかい…

否定してくれると思っていた俺は、和葉の答えに落胆する。


「お前みたいなややこしい女は、俺かて一緒に居たないわ!
あー、せいせいする!」



心にも思ってないことを大声で和葉に言い放ち俺は屋上を後にした。



教室に鞄を取りに行き一人で家まで帰る。


いつも隣にいるはずの和葉が左側にいないだけで
一人はこんなに寂しいものかと思わされた。


なんであんな…しょーもない嘘、ついてまうんやろうか…?


素直になれない自分に腹が立つも、自分ではどうしようもできない。
俺は和葉の家の前を通り過ぎ、自分の家へと帰った。



「…ただいま。」


「おかえりー!」


台所の方からオカンの声がする。


俺は鞄を自分の部屋に置き、手を洗おうと洗面所へと行った。


「平次、和葉ちゃんは?」


いつも聞こえる和葉の声が聞こえなかったオカンは
わざわざ洗面所まで来て俺に聞く。


「当分、来ないやろ。」


俺はオカンにそう一言だけ返し、洗面所を出ようとした。



しかしオカンが通してくれない。


「アンタ…和葉ちゃんになにしたん?」


ギロっと睨みつけられ、さすがの俺も後ずさる。


「なんで俺が和葉に何かしたっちゅー前提やねん!
前提がちゃう!前提が!」


俺はオカンに反論するも「和葉ちゃんが家に来なくなる原因は、全部アンタのせいやろ。」と言われ、言い返すことが出来ひんかった。


「和葉ちゃんが、やっと服部家の娘になるかもしれん一筋の光が差し込んどったのに…
アンタは何してんのや!」


俺のオカンはどうしても和葉を娘にしたいらしい。



…っちゅーことは『和葉と結婚しろ』と言うことなんやろうか?


「和葉ちゃん手放さんよう『しっかり捕まえとき!』ってあれ程言うたんに『忘れた。』なんて言わせへんで?」


付き合ったことがオカンにバレた時、俺がオカンに言われた言葉や。

―『しっかり捕まえとき。』


何回言われた言葉やろうか?


多分、百回なんてものではない。

物心ついた小さい頃から言われてきたからもっとやろうな。


オカンはきっと…分かっていたんや。

俺が和葉のことを好きだということ…
俺が自分の気持ちに気付く前から、オカンは分かっていたんやろな。


俺にとって和葉は大切な存在になるということを―


だからオカンは和葉だけは手放すなと何回も念を押すように言ったんや。


そんなオカンの気遣いも虚しく、俺は和葉を手放しかけている。




親不孝な息子やな…俺。




2011/11/18



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