今日は、アルヴィンがずっとおうちにいる。どうしてだろう?いつもなら、起きたらすぐに外に行っちゃうのに。いつもと違うと、何だかそわそわしておちつかない。
行かないの?と聞いてみると、大きな手が頭を撫でる。
「久しぶりの休みだからな。今日はいっぱい遊ぼうな」
アルヴィンはそう言って楽しそうに笑った。
・・・・・
とんとん、ドアから聞こえたその音で、わたしは目をさました。
耳をぴんと立てて警戒。とんとん、また同じ音。
ちらっと見ると、わたしと同じようにあそんでいるうちに寝ちゃったアルヴィン。とんとん、の音だけじゃあ起きないみたい。
あのとんとんって音は、だれかが来たって合図だったはず。
アルヴィン、誰か来たよ。起きて?
寝転がったまま言うと、アルヴィンの目がゆっくりと開いて、眠たそうに顔をしかめる。でもまた聞こえたとんとん、の音に、「誰だよこんな時に」と言いながらむっくり起きて、部屋の入り口に歩いていった。わたしはそれをベッドの上で座って見まもる。
「…よお、久しぶりだな」
「……まだこの街にいたのね」
「んー、ちょっと野暮用でな」
ドアが開いた後そんな声が聞こえてきて、わたしは誰かなあと近くまで寄っていった。見えたのはアルヴィンと知らないひと、にんげんの足が4本。
だあれ?とアルヴィンに聞くと、アルヴィンは「どうした?」と、わたしを見下ろす。その前にいたのは、女のひとだった。
「猫?」
「ああ、最近飼い始めたんだよ」
今はこいつが俺の恋人、と、アルヴィンがわたしを持ち上げて言う。コイビトって何だろう。
女のひとはアルヴィンとは違う細い手でわたしの頭を撫でてから、怖いかおでアルヴィンを睨んだ。
「猫が恋人なんて、バカじゃないの」
「バカで結構。…で?俺に何の用だよ」
「分かってる癖に、随分余裕なのね」
「何の事だか」
チハヤ、お前は向こうで遊んでな。そう言われて床の上に下ろされる。
わたしが見上げると2人はもう何か話を始めていて、まだにんげんの言葉がぜんぶ分からないわたしには、ただ早口でわけの分からないことを言っているようにしか聞こえない。
アルヴィンと遊べないのは嫌だけど、お客さんならしょうがないや。わたしは元来た道を戻って近くの椅子に上って、もうひと眠りしようと丸くなった。
あの女のひと、誰なんだろうなあ。アルヴィンといっぱいおはなしできていいなあ。
そんなことを思いながら、わたしはふかふかのクッションに包まれて目を閉じた。
・・・・・
がちゃん、さっきより何倍も大きな音でわたしは飛び起きた。全身の毛が逆立って、つられて耳と尻尾もぴんとなる。
何だろうとあわてて椅子から下りてアルヴィンのところへ行く。アルヴィンと女のひとはいつの間にかおうちの中でおはなしをしていたみたいで、がちゃん、の音はいつもアルヴィンが苦いにおいのする水を入れてるコップが落ちた音だった。そのコップは床の上で粉々になっている。
見上げると、ちょっと困った顔をして座ってるアルヴィンと、立ち上がってさっきよりずっと怖いかおをしている女のひと。きっとコップを落としたのはこのひとだろう。
「あなた、最低ね」
「あらら、酷い事言うんだな。俺傷付くわー」
「ふざけないで!」
大きな声に、またからだがびくっとなる。このひと、怖い。
「全部…全部あなたのせいじゃない!!」
だれのせい?アルヴィンの?何が?
よく分からないけれど、アルヴィンが悪く言われてるのは女のひとの声で分かる。
アルヴィンは悪いひとじゃない。それはわたしがよく知ってる。だから悪く言うのはやめて。
わたしは女のひとの足に前足をかけてそう訴える。女のひとはびっくりしたのか話すのをやめてわたしを見た。
「な…何?」
「チハヤは俺の味方みたいだな」
ははっ、と笑ってアルヴィンの手がわたしを持ち上げた。心配で顔を見てみるけれど、アルヴィンはわたしの方を見てくれない。目の前の女のひとばかり見てる。
「味方って何よ、ただの猫じゃない」
「ん?嫉妬はよくないぜ?」
「誤魔化さないで!」
大きな声を出す女のひとに、また毛が逆立つ。早く帰ってくれないかなあ。
「あー怖い怖い…ごめんなチハヤ、お前も怖いよな」
コップ割れちまったし、危ないから。ここで待ってな。
そんな言葉を最後に、わたしはベッドの上に戻された。おまけに扉がばたんと閉められて、ひとりぼっちになる。
まだ扉の外からはあの女のひとの声が聞こえていて、アルヴィンが何を言われているのか気になって仕方ない。
わたしもそばにいたかったのに、何でアルヴィンはわたしを閉じこめたんだろう。そんなにあのひとと2人でおはなししたかったのかな。悪く言われてたのに。分からない。
それを考えてるとなんだかもやもやしてきて、気持ち悪い。ベッドの上でごろごろ転がってみる。と、窓の外で何かが動いた気がして、次の瞬間、
「嫉妬はよくないねえ、子猫ちゃん」
声が聞こえた。
びっくりしてがばっと起き上がる。声がした場所はベッド上の窓。軽々とジャンプで飛び乗ったそこには小さく開いた窓と、
「よう」
白い鳥さんがわたしの目の前で羽を振っていた。
『わたし、もやもやする』
to be continued…
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