「いいなあ、それ」
「は?」
「ぶかぶかのコート、何かいい」

背後から掛かった言葉に訝しげに眉を寄せ、チハヤはベッドの端から腰を浮かせ冷たい床に素足を付けた。
キャミソールワンピース状の寝間着の上からアルヴィンのコートに袖を通したまま、周囲に散らばる衣服を拾おうと手を伸ばす。
と、後ろから筋肉質の腕が彼女の肩と腰に回り、そのまま引き寄せた。

「もう脱ぐの?まだ着てていいぜ?それ」
「近くにあったから着てただけです」
「またまたー、素直じゃねえな。本当は着たかったんだろ?」
「何でそういう捉え方しかしないんですか」
「おたくが素直じゃないからだろ、子猫ちゃん」

言って、アルヴィンは腕の中の身体を抱いたままベッドの端に腰掛ける。
必然的に彼の膝の上に乗る事になったチハヤのうなじに顔を埋めれば、甘い香りに混じって微かに汗の匂いが鼻に入る。
じわじわと頭をもたげ始めた欲を抑えようと細い腰に回していた手を滑らせワンピースから伸びる太ももを掴み緩く揉む。すかさずチハヤの手が伸びてきて手の甲を強くつねった。

「痛い痛い、ひでえな」
「…いきなり何してるんですか」
「ん?生足じゃ寒そうだなーと思って」
「寒いから着替えるんで離してください」
「俺があっためてやるって」
「ちょ…っ!」

一瞬で膝の上のチハヤを抱えベッドの上に降ろして組み敷き、抵抗に開く唇を塞ぐ。
舌を吸い上げ絡ませながらも、片手をシーツと彼女の背中の間に差し込み背骨のラインを指でなぞる。びくりと跳ねた肩にほくそ笑み、わざとらしく音を立てて唇を離した。

「おたくさ、脱ぐと色っぽくならねえ?」
「っ…はあ…?」
「いや、コートがぶかぶかだからかねえ…」

アルヴィンの下で乱れた呼吸に喘ぐ彼女の身体は、未だ袖を通したままの彼のコートより二回り程小さく細く。元々あまり露出の多くない服装のせいか、こうして剥き出しの腕や浮いた鎖骨を見ると、普段は気が強いだけの少女に年相応の熟れきれていない色香が混じる――と、少なくともアルヴィンはそう思っている。
真白い肌に残った鬱血の跡にそっと舌を這わせ、惑いに息を飲みつつも抵抗のなくなったチハヤにいい子、と囁きを落とした。
羞恥からかコートの袖でもじもじと口元を覆う姿に、再び欲がじわりと。

「…やっぱさあ、ぶかぶかってロマンだよな」
「……、意味が分かりません」
「分かんなくていいから、もう一戦よろしく」

意地悪く笑い、アルヴィンは自分のコートごとチハヤを抱き締め、シーツの中へと埋もれていった。


ぶかぶか万歳


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