捧げ物 | ナノ
出会ったのは幽霊ではなく呪いでした。 1/4


『ねぇ……カカ……』

「……な、なんだ?」

真っ暗で霧深い森の中……

長い間2人でさまよい続けている……


静寂が木々のざわめく音を引き立てた。


『あたし達……完全に迷子だよね。』

「……あぁ。」


もう帰る道すら分からない。





出会ったのは幽霊ではなく呪いでした。





大学のサークルメンバーでこの連休にキャンプに行こう!

そんな計画が何処からともなく飛び出して、カカロットと同級生のヒロインそして他6人……計8人で近場のキャンプ場に遊びに行くことになった。


1泊2日の簡単な小旅行。
サークルのメンバーでということもあり、サークル活動も込みの和気藹々(わきあいあい)な活動を企画した。


彼らのサークルはいわゆる【オカルト】を研究する、オカルトサークルという少し珍しい集まりである。

どうも……このキャンプ場の近くに古い昔墓地があったとかなかったとかで結構【出る】らしいのだ。

他にも山にある分UFOを見たなんて目撃情報もあったらしく。
このキャンプ場はいわばオカルトの宝庫なのだ。



キャンプ場に到着し、夜中になるまでカレーを作ったりキャンプファイアーをしたりと普通のキャンプを満喫した後……

「よし!肝試しをしよう!」

と誰かの声を合図に皆でクジでペアをつくり計画通り林道を地図などを見ながらまわる肝試しを始めることになった。


地図で経路を確認し、昼間に部長があらかじめ置いたストラップをとってくるというシンプルなものだ。


『4番……だね』

「ん?お前も4番か。じゃあオレとペアだな」

たまたまクジで一緒のペアになったヒロインとカカロットの2人。
一番最後のペアとして、彼女は少し緊張しながら、彼はむしろ意気揚々と肝試しをスタートさせた……のだが……




ピタリと2人は動きを止めて力なくへたりこんだ。


『うぅ……どうしよう……これって遭難しちゃったってこと?』

「……。ダメだ、携帯も圏外だ……」


途中でどんどんと霧が濃くなり、部長が用意していたと言っていた道の案内もすっかり見えなくなり……方向感覚が狂ったあげく完全に森で迷子になってしまったのだ。


『こんな時に限ってコンパスも壊れるなんて……』

「ったく、なんだこれ……樹海かよ、ここ。」

頼みの綱のコンパスですら、先程からぐるぐると針を回し使い物にならない。


カカロットは一息つくとゆっくり立ち上がった。


「止まってても埒があかねぇ……!
とりあえず歩くぞ!」

その言葉に危機感を感じたのかぶんぶんとヒロインは焦って首を振る。

『え!?危険だよ!ここは霧が晴れるのを待ってじっとしていた方が……!』

「でも……っ!!」

『こんな視界が悪い中歩いたら、谷とかに落ちちゃうかもしれないよ!?
それに、帰ってこなきゃ皆心配して探しに来てくれるよ。
……だから、待とう?』

無理に体力をつかって、下手をすれば怪我をするかもしれないならここで体力を温存し見晴らしが少しでも良くなるまで待機していた方が賢明だというのが彼女の判断だった。


こんな森の中でじっとしているのは気味が悪いが、仕方がない……

カカロットも納得した様で再び腰をおろした。




ーーだが、いくら待っても霧が晴れる気配はなかった。

しばらく緊張を紛らわす為話をしていた2人だったが……


「なぁ……やっぱり歩かないか?」

『……。』

痺れを切らしてカカロットはまた立ち上がった。
夜の森の静寂が2人に重くプレッシャーをかけてくる。

恐怖心が膨らんだ彼女もしばらくして控え目に頷いた。



はぐれないように控え目にヒロインはカカロットの服の袖を掴む。

不安に押し潰されそうになりながら小さく彼女は口を開いた。

『カカ……』

「ん?」

『……帰れるのかな……あたし達……』

「……。」

下手をするとこのまま山をさまよい続けて……

最悪の想定が2人を過った。


だがそれを否定することなんて出来はしない……

「さぁ、な……」

カカロットもそう返すことしか出来なかった。


『……そっか。』

彼の後ろで震えるヒロインの声……


その声に彼は少し後悔した。

確信がなくても【大丈夫だ】と言えば良かった。

そうしたら、彼女の不安もとれただろうに……

かえって彼女の不安を煽ってしまった。




……どれくらい歩いただろうか

『……あ!』

少し先……霧で見にくいが……

「出た……!出口だ……!!」

確かに目の前が拓けていたのだ!


少々危険な賭けだったがそれが吉と出たらしい!

『やったぁ!!』

「助かったーっ!!」

2人は思わず抱き合って喜びあった。


「……あ。」

『!』

しばらくしてようやく我に返り、わざとらしく距離をとる2人。

顔を互いに赤くさせながら……それでも嬉しさを膨らませ、彼らは森の出口へと走った。



「……あれ?」

『ここ……どこ?』

しかし出た場所はキャンプ場ではなく……不思議な場所……

大きな湖のほとりだった……
湖の中央には大きな一本の木が聳え立っている。

その幻想的な光景はこの世のものとは思えない。


『きれい……』

思わず言葉が溢れ出た。

まるでファンタジーか異世界に来たかのような感覚だ。


「すげぇな……」

思わずカカロットも目を見開く。

しばらく自分達が遭難している事も忘れて2人でその光景を眺めていた……


……しかし、その時!



一筋の光がヒロインの体を吹き飛ばした!

『きゃあっ!!』

「なっ!?何だっ?!」

倒れた彼女の体を怪しげな光が包み込む。


突然の展開にカカロットも、吹き飛ばされたヒロインも理解が追い付かない。

光が飛んできた方へカカロットが振り返ると、そこには黒いフードを深々と被った謎の人物が立っていた。


「誰だお前!?ヒロインに何をしたッ?!」

カカロットがそう叫ぶも謎の人物は動じない。

それどころか……

謎の人物は持っていた杖をカカロットの方へ向けてブツブツと呟いた。


その瞬間……!

杖からヒロインを襲ったのと同じ光が彼めがけて飛び出した!


「うがっ?!」

素早い光を避ける事も出来ず……光がカカロットに直撃する。


『カカ!……うっ……く……』

「ぐ……くそ、なんだってんだ、よ……」

苦しそうに悶える2人に謎の人物は低い獣の様な声で笑うと、2人向かって笑いながら言い捨てた。


「異世界の住人達よ。汝らに呪いをかけた……。
……解いて欲しくば、我を探してみせよ……!」


「おいこら、お前……何言ってんのか……さっぱりだぞ……っ」

『の、呪いって……っ』

2人の意識が遠退く……
消え行く意識に謎の男の笑い声だけがよく響いていた……。






_________





朝日が2人の体を柔く包み込む。

「ん……」

湖のほとりでカカロットは目を覚ました。

もう、あの男の姿はない。


「なんだってんだよ……くそ……」

悪態をつきながら辺りを見渡すと、日の出の光に照らされてヒロインが倒れていた。


「ヒロイン……!
おいっ、ヒロイン!しっかりしろっ!」

『……。……んー……?』

ガクガクと揺さぶってやると、彼女は小さく声を上げて目を開ける。
彼女の体に目立ったケガはない。カカロットは安堵のため息を吐いた。


「一体、なんだったんだ……アイツ……」

相変わらず携帯は圏外で他のメンバーと連絡はとれない。
遭難してから会った唯一の人間があんな変なヤツだなんて……最悪だ。


『あの人、変な事言ってたね……異世界がどうとか、自分を探してみろ……って
……それに、呪いとか……あの光だってトリックとかじゃ……なさそうだったし……』

「オカルト……ってか?」

『お化けが出るって……そういうこと!?』

なんて壮大な設定持ちのお化けなんだろう……


「とにかくここに何時までもいるわけにはいかねぇな」

確かにもう夜が明けてしまった。


ーー昇りはじめた太陽が……地平線から完全に顔を出した。


『……!!』

ドクン……ッ
瞬間……ヒロインの心臓が大きく波打つ。


『あぁ……ッ?!』

「ヒロイン?!おい、どうしたッ?!」

胸を抑えてうずくまるヒロインの肩にカカロットが手を置こうとした……


その時だった……



「な……っ?!」

ーーヒロインの姿が変わっていく……!?

光に包まれたヒロインの体が……小さく……人とは違う形をつくっていく……


そして気が付いたときには……

ーー彼女はもう人間ではなくなっていた。


「なっ!?お、お前……!?」

目の前には小柄だがとても綺麗な鷹が1羽、佇んでいた。

突然の事に訳が分からなくなるカカロット。

鷹も、何が起こったのか分かっていないように……



『ピィ……?』


と小さく鳴いた。




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