捧げ物 | ナノ
意外と気づかれてるっぽい。 1/6


私のクラスには少し変わった雰囲気の男子が居る。

ちょっと珍しい名前に逆立てた金髪……

かといって不良って訳じゃない。むしろ真面目で頭脳明晰。

じゃあスポーツが出来ると思えば全然ダメな運動音痴。

それを証明するように、彼は如何にも度が強そうな眼鏡をかけている……
よくアニメとかで真面目な人がかけてそうな瓶底眼鏡の様なそんな感じの……


彼曰くこの毛は地毛で、逆立ってるのも決してワックスで固めている訳でもないらしい……

瓶底で見にくいがそれを証明するかの様に彼の碧眼が困った様に細められていた。


眼鏡さえなければ不良っぽい見た目なのに、運動音痴の頭脳明晰なガリ勉君……



『んー……』

常に目立たずだが孤立することなくクラスに溶け込めてるそんなチグハグだらけのクラスメイトが凄く気になってます。


「ヒロインさん」

『!』

そんな考え事にふけっていると後ろから声をかけられる。

振り返るとそこにはその張本人の男子――カカロット君が立っていた。




意外と気づかれてるっぽい。




「あと1ヵ月に迫った文化祭の件で、今週金曜に学級委員で仕切ってクラスの出し物を決めるんだけど……今のうちに学級委員同士で金曜に決める事を整理した方が良いと思って」

『あ、そっか今週だったもんね』

確かに金曜日に肝心の学級委員の2人がグダグダしてしまっては意味がない。

――実は私達は偶然にも学級委員という同じクラスの係だった。

それがカカロット君が無性に気になる原因でもあるのかもしれない。


流石真面目系男子。こういうのにも抜かりはない。

『今日放課後用事ないから、じゃあ少し話し合っていこうか』

「ありがとう」

放課後特に用事の無い生徒はそそくさと教室から出ていく……



放課後の教室に学級委員の2人だけ

雑談を交えつつ金曜日の話し合いの内容と時間配分を決めていく。


大分時間が経ち……

からんとシャープペンを転がして軽く背伸びをする。

『……うん、こんな感じかな!』

決める事は少なかったが、雑談まじりだった為か少し遅くなってしまった。


「無理言ってごめん、こんな遅くまで……。でもヒロインさんも真面目だから凄く助かったよ」

『そんな、カカロット君に比べたら私なんて全然真面目なんかじゃないよ』

カカロット君は自分の生真面目さに気付いてないのかな?
そんな彼に笑みを浮かべると机の上に広げた筆記用具をしまい始めた。



すると

きゅるる……

「あ……」

2人きりの教室に少し大きな音が響く。

カカロット君は顔を赤くしてお腹をおさえた。

気の抜けた音に思わず笑いが込み上げた。


『ふふっ、カカロット君お腹すいてたんだね!』

「い、いやっ、別にオレは……!」

ぐぅー……

指摘され意識したからか再びカカロット君のお腹が音を立てて主張する。

焦って必死に繕う彼の姿がどうしても可笑しくて……


『あはは!お腹は正直みたいだね!』

「う……」

困った様に頬を掻くカカロット君。

だけど私も人の事は言えない……実は私もお腹が減ってきてたりする。

時計を見ればもう6時半。
生徒の完全下校時刻だ。

『もう帰らなきゃね』

「ん、そうだね」

荷物をまとめて教室を後にする。

この前偶然分かった事なのだが、カカロット君の家の方向は私の家の方向と同じらしい。




カチャリ……
歩く度に眼鏡がずり落ちてくるのか彼は私の隣で何度か中指で眼鏡を上にあげる。

私はカカロット君と一緒に帰っていた。

『なんかごめんね、送ってもらうような形になっちゃって』

「そんな、方向も一緒だしついでだって。すっかり暗くなっちゃったしさ」

方向は同じとは分かっていたが、話せばどうも私の家はカカロット君の家の通り道にあるらしい。

外はもう真っ暗だ。危ないし通り道だからということで彼の提案で一緒に帰ることになった、という次第だ。



『(真面目なだけじゃなくて、優しいんだなー、カカロット君)』

カチャリ……
でもそんな眼鏡をなおす音に紛れて

ぐるるぅ……
お腹の音もひっきりなしに聞こえてくる。

カカロット君はバレてないと思っているのか知らんぷりしているが……いや、お腹の音に注意がいかない様にわざと眼鏡をカチャカチャしているのかもしれない……!
でも、意外と気づかれてるんだよね、こういうのって……!

そう考えると無性に可笑しくなってきた。

しかし、そんな笑っちゃ悪いことだろうし必死に笑いを堪える。


「な、なんでそんな難しい顔してるの?何か、まずかったかな……?」

『へ?!あっ、いや、別に……!!』

どうやら笑いを堪えていたのが裏目に出たようだ。

私は少し大袈裟にブンブンと手を振ると目線を泳がせる。



すると……


『うわ……っ』

「ど、どうした?」

目線を色々泳がせていたら、側の路地裏に居た怪しげな不良達と目があってしまったのだ……



あの制服……ガラの悪さで有名な地元の高校のものだ。

不良達3人は得意気に財布から札を出して数えていた真っ最中で……


それが、さっきカツアゲで獲得した誰かの財布なのだろうという事は不思議と瞬時に理解出来た。

その不良達と私は目が合った状態でしばらく固まっていたが……

ニヤリと彼らは怪しげに笑みを浮かべた。


ヤ、ヤバイッ!!目をつけられた!!!

「ん……?」

そっちに何かあるの?
不良達の存在に気付いていない、カカロット君。
私はそんなキョトンとしている彼の袖を引く。


『早く行こっ!!ヤバイよ!!』

だが状況が掴めていないカカロット君は突然の私の行動に戸惑いながら口を開いた。


「きゅ、急に何!?ど、どうしたの……?」

ーー何が……!?

しかしカカロット君の言葉はここで途切れた。



ドカッ!!

路地裏から出てきた不良の1人がいきなりカカロット君を殴り飛ばしたのだ!

『きゃあッ!!!』

もともとここら辺は夜になれば人通りも少ない場所だ。

見た限り通行人は居ない。

とっさに私が声をあげようがそれを聞いて助けに来てくれる人も居るハズがない……


カチャン……
音をたててカカロット君の眼鏡が道路に落ちる。

大きい音をたてて彼も少し離れた場所に転がった。


『カカロット君っ!!』


「ラッキー、今日はカモが大漁だな」

『っ!』

すぐ背後で不良達の声がする。
気付いたときには後ろから腕を強く掴まれていた。


「彼女、今帰りかい?
家に帰るのはまだ早いぜ。オレ達とちょっと遊んでかねぇか?」

『嫌っ!!離して、んぐっ?!』

大声を出されるのを嫌ったのか不良は私の口を後ろから手でおさえてしまう。


「先輩。こっちの眼鏡、どうします?」

不良の1人がカカロット君を指差しながら私を取り押さえてる男に訊ねる。

「そりゃもちろん貰うものはもらうさ。ただここだと人目がアレだからな。路地裏戻るぞ」

「へーい」


「さ、彼女も行くぞ」

『んぅ!!』

口を押さえられながら路地裏へと引っ張られる。
抵抗したが全然敵わない。

ダメだ、路地裏なんかに引き込まれたら助けなんてきっと来ない……!!


残った不良達2人は吹き飛ばされたカカロット君を路地裏に連れていこうと彼に近付く。

バリィ……ッ!!
不良の足の下で彼の眼鏡が無惨に踏み潰された。


「さて、路地裏に来てもらうぜ」

倒れているカカロット君に不良達が手をのばす。


『(カカロット君……!!)』

ーー万事休す。

だけど、そのピンチは……



……不意に、終わりを告げた。




「いてぇじゃねぇか……クソが……っ!!」

「え……っ?!」


バキッ!!

「ぐはっ?!」

突然大きな音がして不良の1人が吹っ飛んだのだ……!


「何が……あがっ!?」

急な事でついていけてないもう1人も、次の瞬間には大きな音をたてて殴り飛ばされていた!



「な、なな、なんだコイツ……」

一瞬の出来事に私を押さえていた男も、私を取り押さえることを忘れ1人後ずさる。

『カ、カカロット君……?』

クラスメイトの私ですら、おいてけぼりの状態だ。


何、今の……?

カカロット君、不良達をやっつけちゃったの……?

しかも、こんな一瞬で……!?


パキパキ……
残った不良はあと1人。カカロット君は指を鳴らして相手を威圧する様に近づいてくる。


『あわ、わ……』

私はその視線から逃れる様に脇の路地裏に逃げ込むと、こっそりカカロット君達の方を覗き見た。


残った不良は動揺した目でカカロット君を見ていた。

「お、お前……何者なんだ……!?」

たった1発で仲間を昏倒してしまったカカロット君に相手は恐れをなしている。

カカロット君は目付きを鋭くし吐き捨てた。

「知ったところで何になんだよ。人の下校の邪魔しやがって」



『(カ、カカ、カカロット君……ッ?!)』


その言動からはあの学校での真面目なガリ勉君なカカロット君のカの字すら感じさせない……

そ、それ以前に、眼鏡!
この前眼鏡かけてないと前が全然見えないってカカロット君言ってなかったっけ!?

なっ、なんで不良達倒せたの?
どんな動きしたの!?クラスじゃ運動音痴さで1、2を争ってるハズだよね?!


心の中で疑問が渦巻いて爆発寸前まできてる。
でも口に出したら私まで何だか大変な事になりそうだからその疑問を今は無理矢理心の中に押し留める。



「オレ達何にもしてねぇだろ。オレだけならまだしもヒロインにまで手出しやがって……!」

カカロット君の碧眼が不良を捕らえる。

不良は動揺を深めて1歩後ずさったが、堪える。
そして、カカロット君を思いっきり睨んで吼えた。


「いきがってんじゃねぇぞ、コラァアアッ!!!!」

『っ!!』

ビクッ
思わず肩が上がって私は身を縮みこませる。


「……」

なのに怒鳴られた張本人のカカロット君は何も動じず目の前の光景を眺めていた。


不良は吼えながら真っ直ぐカカロット君に突っ込んでくる……

危ない、殴られる!

でも私はどうする事も出来ず、見ているしか出来なかった。


が、その瞬間……

バッ
カカロット君は鋭い視線をより一層鋭くすると不良の攻撃を側転で華麗にかわし、相手の背後に回り込んだのだ……!


『あっ!!』

うそ……
運動音痴のカカロット君が……!?


「何ぃっ?!」

後ろをとられた不良が焦るも……もう遅い……

「ずっとそこで寝てろ、馬鹿が」

ダンッ
カカロット君はそう吐き捨て、不良の首筋に手刀を叩き込んだ。

ドサッ
気を失ったのか不良は地面に倒れこむ。

カカロット君の反撃が始まって数分も経たないうちに、彼は全ての不良をあっという間に返り討ちにしてしまったのだ。


カカロット君は、ハァ……とため息をつくとプラプラ手を動かす。

やがて落ち着くと、不良の1人の体を抱えて路地裏へとやって来た。


「……とは言ったものの何時までも道で寝てられると厄介だからな。路地裏にでも寝ててもらおう」

不良を路地裏におろしてカカロット君はもう1度大きなため息をつくと、ググッと背伸びした。

その彼の視線が私を捕らえる。


「……。」

『……。』

しばらくどちらも何て言っていいか分からずに沈黙を繰り返す。

目も互いにそらすことが出来ず、見つめ合ったまま時間だけが過ぎていく……


大分時間が経って……

控えめにカカロット君は笑うと倒れてる不良達を指差した。

「え、えと……とりあえず今この人達路地裏に運ぶから少し待っててもらっていいかな?」

『……。』

その表情と口ぶりはいつものカカロット君そのもので……
私は唖然とした表情をしたまま頷くことしか出来なかった。






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