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「わりぃと思ったら仲間には一言謝ればいいじゃねぇか。それで済む話だ」
『……えぇ。そうね』
私の次にやるべきことが決まった。
『……?』
ふと、頭に置かれた悟空の手の感触が変わる。
彼は手を通して私の何かを探っている様だった。
最初は、記憶でも探られているのかと警戒したが、どうもそうではないらしい。
彼はしばらくして手を離すと、にぃと口角をつりあげた。
「……おめぇ。まだまだ力が眠ってるな」
『え……?』
「なんとなく分かんだ。おめぇはまだまだ強くなるぞ!」
『もっと強く……私が……?』
私が高い潜在能力を持つ事が分かったからか、彼は目を星空並みに輝かせると、今度は私の手をとる。
「おう!なんなら亀仙流の修行方法教えてやろうか!?
基礎とかしっかりするとグンッと気もあがるぞっ!!」
『ちょっ、近いわよ……!?』
手をとったままでグッと顔を近づける悟空に、私は咄嗟に手を振りほどいて距離をとった。
……とはいえ、【まだまだ強くなる】、か。
自分に強くなる可能性がある。
その事実は嬉しかったし、その希望にすがりたかった。
『……その修行方法、教えてくれる……?』
「おう!ケガが治ったら試すといいぞ!!」
ニカッと悟空は犬歯を覗かせて笑う。
夜だというのにその笑みはまるで太陽に眩しく暖かくて。
不意にドキッとしてしまった。
どうしてそんな反応をしてしまったのかは分からない。
だけどそんな反応をしてしまったのがなんとなく恥ずかしくて、私はまた幾度目かの悪態をついた。
『……本当に貴方はお人好しなのね』
「ん?へへっ、まぁな!」
誉めたつもりなど毛頭ないのに、なんでそんなに嬉しそうに誇らしそうにしてるんだか……。
今までなら彼の呑気さにため息しか出てこない。
でも、今は……
『……ありがとう。』
小さくため息の代わりをこぼす。
少しだけ、彼のそういった所も悪くない。そう思える気がした。
_________
悟空に修行方法を教えてもらい、もう少し夜風に当たっていくといって1人になる。
『……。』
外の風は気持ち良くて
その優しさが高鳴った胸の鼓動を鎮めていく。
しばらく星空を眺める。
町明かりのない山の夜空はとてもキレイで、やはり見とれた。
だけど歴史の改変が続けば、この景色も消えてしまう……
そう考えると無性に儚くて、切なくなった。
ーーいや。させない。
この景色を私は消したくない。消させない。
そして私はこの景色の下で生きる人達を失いたくない。
1つ大きく深呼吸をする。
冷たい空気がコーヒーで温まった体を心地よくめぐっていく。
そんな折……
ふと、視界の隅が光る。
見覚えのあるその光に、私は目を伏せた。
戻る手間が省けたと安堵する半分、こんな所まで来るかという驚き半分。
光が収まり、出てきた人達を見て肩をすくめる。
そこから出てきたのはトランクスとベジータだった。
2人は私の姿を見るや近づいてくる。
説教なら甘んじて受け入れよう。そう2人に向き直り覚悟を決める。
「ーーごめんなさい!」
だが、トランクスから出た言葉は謝罪だった。
『……え?』
トランクスは私の体を見ると、顔を青くさせてあたふたし出す。
ベジータは相変わらず腕組みして仁王立ちしていた。
「父さんが、かなり無茶苦茶な事をしたみたいで……お体は大丈……夫じゃないですねっ?!ホントにごめんなさい!!」
「おい。謝る事はないと言ってるだろトランクス。大体コイツがふざけた事を抜かすから……!!」
「だからってやり過ぎです!!いくら彼女を超サイヤ人へ覚醒させる為だったとはいえ……っ!!」
「敵との戦いに敗れ、死の淵から立ち直ったコイツなら超サイヤ人にもなれると判断したからやったまでだ。正直今後の戦いでは超サイヤ人になれないようじゃ話にならないからな」
「でも彼女はトワ達との戦いで精神的にもダメージを負ってるんですから、そこは優しく接してケアしていかないと……!」
「優しくなんて甘ったるい事を言ってるんじゃない!!こっちには時間がないんだぞ!!」
『あの……突然やってきて目の前で言い争いするの、止めてもらっていいかしら?』
静かな夜の空気に2人の声が響く。
他の人達に聞かれたら困るでしょうに……
私が指摘すると、トランクスはまたあたふたし出す。
「ご、ごめんなさい!」
「おい。謝る事はないと言ってるだろトランクス!大体コイツがふざけた事を抜かすから……!!」
『……ねぇ、話がループしてるわよ。』
そして声を小さくするという選択肢はないのね。
さっきから平謝りのトランクスといつも通りのベジータに、小さく息を吐く。
でも、こうなったのは他でもなく私の所為なのだ。
『謝るわ。ベジータにも……トランクスにも失礼な事を言った自覚はある……本当にごめんなさい』
頭を下げる。深々と。
私が駄々をこねなければ、こんなことにはならなかったのだから。
キリキリと折れたあばらが痛む。
『修行をしてるのに……全然歯が立たなくて……私じゃダメだ……勝てない……そう思うと辛くなって、どうしていいのか分からなくなって』
怖くて、でもどうしようもない。ぶつける宛のなかった感情を、衝動的に皆にぶつけてしまった。
『この数日間で……特にさっき孫悟空と話をして頭が冷えたわ。私こそ本当にごめんなさい』
「も、もう良いですよ!頭をあげてください……!!」
トランクスの慌てた声が頭上に降ってくる。
ゆっくり頭をあげれば、相変わらず彼はあわあわとしていた。
思わず苦笑いする。彼は相変わらずだ。
無茶振りこそ多いが、私への気遣いを忘れた事なんてなかった。
だが、不安がなくなったというわけではない。
『でも……やっぱり不安なの。私はこの先本当に強くなれるのか。この先の改変に、そしてトワとミラとの戦いについていけるのか、分からなくて不安で……怖い』
正直に自分の心境を打ち明ける。
トランクスはその不安を受け止め、落胆することなく頷いた。
「確かに貴女はサイヤ人で、戦いのセンスはあります。
……ですが、確かに今の貴女ではこの先の戦いは厳しいでしょう」
『……。』
正直に自分の心境を吐露した私と同様に、彼は私の戦力不足を静かに指摘する。
しかし、彼はその発言を自分で打ち消すように首を振った。
「でもオレは……貴女はまだまだ強くなる……と確信しています」
『トランクス……』
「オレはドラゴンボールを使って、神龍にオレ達と一緒に戦ってくれる強い人の存在を願いました。そしてその結果貴女が現れた」
なんでも願いを叶えてくれるドラゴンボール。
神龍には会ったことはないが、数ある強者の中で、龍は私を選んだ。
「神龍はきっと貴女の延び白を……成長を見越してオレ達と引き合わせたんだと思うんです。
そして、貴女がこの騒動を解決するのに協力してくれる心優しい方だということも分かった上で……」
『でも……私は逃げたわ。貴方達に散々当たり散らしてみっともなく』
トキトキ都での失態を思い出す。なんて醜かったのだろう。
トランクスと時の界王神様の傷付いた顔を思い出して申し訳なさがまた込み上げてくる。
だがそんな私の様子を見て、トランクスは眉を下げて頷いた。
「誰だって逃げたくなりますよ。……あれだけ強大な敵が現れたら。オレだって今のままではミラには敵いません。正直、オレも彼の強大な力に震え上がっていたくらいです」
『トランクスも……?』
「全く情けない」
ベジータは舌打ちしながら私たちを見る。
眉間のシワの深さが、彼の嘆きをより際立たせていた。
「貴様らはサイヤ人の血をひいているというのに……簡単に怖じ気づきやがって。
禁止されていなければ、オレが直接過去に行って、ソイツらをぶっ飛ばしてやっても良かったんだがな」
「ですが、倒した敵の力を吸収する……ミラにはそんな能力があると臭わせる発言を彼らはしていました……現状敵の本気が未知数な状態で父さんの力をお借りするのはリスクが高すぎます」
「なんだ貴様。オレが負けるとでも言いたいのか……?」
「ち、違いますよ!あくまで万が一、最悪の場合の話で……!」
「チッ……」
「とっ、とにかく!!ヤツらに対抗するにはもっと強くならなくてはいけない。貴女だけではなく、オレ自身も……!」
ベジータは不服そうにしながらも口を閉ざす。
彼もこの状況を打開するにはトランクスの意見が大事だという事が分かっている様だ。
歴史上の悟空達と接点があって、顔が割れているベジータやトランクスが直接歴史を修正すれば、新な改変を誘発する可能性がある。
彼らはサポートに回るしかない。
歴史の改変を修正するのは、彼らと接点のない人物しか出来ないのだ。
「地道に強くなっていくしかないんです。幸いヤツらはオレ達がタイムパトローラーということも、トキトキ都の場所も把握出来ていませんから。
ヤバイと感じたら一端退避してしまえば良いんです!」
「な、なんて情けない作戦だ……!」
「うぅ……」
『……私達はいつも通り修行やPQ(パラレルクエスト)で強くなって、歴史の改変に挑む。それを積み重ねて地道に強くなり最終的にはトワとミラを倒す。
……確かにそれしか私達には道がないのかもしれない』
ベジータは額をおさえて唇を噛み締める。
なんて地道で、それでいて正々堂々のへったくれもない作戦。
サイヤ人らしくはない消極的な立ち回り。だが、またミラ達と接敵したとして現状じゃ負け確実である。
「チッ、不服だが今の貴様らの実力じゃそうするしかないということか……
だったらさっさと戻るぞ。こうして話をしている時間すら惜しい。
まずは治療。その後にみっちり修行だ。1日サボっただけでも損失は大きい。ブランクを取り戻さんといかん」
『1日……?私、少なくとも5日はここに居たわよ?』
「何?」
「もしかしたら、この書物の切れ端は時間の進み方がオレ達の常識から外れているのかもしれませんね。ここに来る時に変な渡り方をしちゃったのかも」
「数日ブランクがあるのなら尚更時間が惜しい」
さっさと帰るぞとベジータは私の折れていない手を乱暴に掴む。
トランクスは慌てて父の手を私から振り払った。
「とっ、父さん!?さ、さっきも言いましたが彼女は強大な敵を前に、精神的なダメージが……!」
『もういいわ。トランクス』
「え?で、でも……」
きょとんとする彼と、相変わらず険しい表情のベジータに向き直る。
『私が代役をたてるべきって言ったのにこうして来たって事は、まだ私の代わりに戦ってくれる人は見つかっていないのでしょう?』
「え、えぇ……そんなに簡単に見つかりませんよ。タイムパトローラーの数はそもそも少ないですし、貴女程の戦闘力を持った人なんてまずいません」
『なら……私が戦うしかない。たとえ今の私がまだまだ未熟なのだとしても。神龍が……ドラゴンボールが私を選んだのだとしたらね』
まっすぐ見据えた視線は彼らをとらえたまま外れる事はない。
私の動じない態度に、ベジータは少し意外そうに私を眺めた。
「随分な掌返しだな。どんな心境の変化だ?」
『……別に。……ただ…………
ーーこの世界にはお人好しが多すぎるって分かっただけよ』
私は後ろを振り返る。
少し遠くには、今も呑気に私の事を待っているであろう彼らがいる家が佇んでいる。
『皆揃いも揃ってお人好しだわ。それも甘だるくて胸焼けを起こしそうなくらいとびっきり。
何も事情を聞かずに私に手を差し伸べてくれた孫悟空やその家族然り、突き放したっていうのに私を迎えに来てくれる貴方達然り、ね』
「なッ!?別にオレは……!」
視線を元に戻せば不服そうなベジータの表情が写り込む。
その表情がなんだかおかしくて、思わず笑みをこぼした。
『それだけじゃない。一緒に戦ってきた悟飯やクリリン達も一様に優しくて……
……失いたくないって思ったのよ。そんなお人好し達が笑顔で暮らすこの世界をね』
今まで関わってきた彼らの姿が脳裏をよぎる。
その姿はまるで流星のように輝いていた。
失いたくない。壊したくない。
見ず知らずの私に手を差しのべてくれた彼らを、私は守りたい。
ひゅう……と冷たい風が吹く。
その寒さに負けないくらい、私は固く拳を握り込んだ。
『ーーもう2度と失いたくない……今度こそ……守りたいの』
この決意は拳よりも堅い。
色々挫折を味わったけど……私はもう迷わない。
真剣な表情でトランクス達に想いを伝える。
……だけど、当の彼ら……特にトランクスはまたきょとんとした表情を浮かべていた。
なんでそんな表情を……そう問う前に、不思議そうに彼は切り出す。
「【今度こそ?】って……
ーーそれって一体いつの事ですか……?」
『……ぇ』
確かに……それっていつの話なの?
『ーーッ』
ズキリと頭が痛んだ。
確かにそうだ。任務に失敗した事はないハズなのに……。
『う……い、た……ッ!!』
「だ、大丈夫ですか!?」
突然の痛みでうずくまる私にトランクスが駆け寄ってくる。
『イタ、イ……ッ!!』
頭が割れてしまいそうだ。
何故急にこんな痛みが……!?
いや待て……何か、思い出せそうな気がする。
私は何も出来なかった。
私の所為で……
そうだね、キミの所為だね。
でももう手遅れだよ。
じゃあね、バイバイ。
『……だ、れ……?』
おぼろげな景色が過る。
白い空間に、誰かが居る。
誰だろう。あの子は誰?
これはいつか見た夢のお話。
そう思って、ハッとする。
ーー違う。……これは……私の……き……
『ぐッ!!?ぅ、うぐ……ぁあああッ!!?』
痛い。
頭が痛い。
痛い、痛い、痛い……っ!!
心配そうな声がする。
声の内容もそれが誰なのかも判別出来ない。
そしてこれが現実なのかも、過去の記憶の物なのかも……わからーー
……ーー
ーー……私の視界はそこで暗転した。
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_________
次回はいよいよフリーザとの戦いへ行く……予定!
キリの良いとこまで書こうとしたら、とても長い文章になっちゃいました(^-^;
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(誹謗中傷はご遠慮ください)
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