3
「……分かれば良いんだ」
俺が黙ると高瀬は満足したのかそれ以上は言わなくなった。
やっぱ他人にはっきり言われた方が堪えるな。
何かやる瀬なくなってきた。
「全く、こんな奴に抱き抱えられてる汰狼君が可哀想で仕方ない」
「はい?」
スタートラインについて急に高瀬の顔が見えなくなったかと思えば何故か中原先生が俺をじっと見てる。
何でそんな優しそうな顔で笑ってるんだ?
俺、先生とこれといった面識はない筈。
「こんな普通な子が剣道強いなんてギャップが素晴らしい!高瀬なんかより汰狼君をっ、ぐはっ!」
中原先生、俺の事知ってたのか。
そっか、表彰式とかはされないけど一応全国制覇したし先生なら知ってるか。
つか中原先生が話してる最中にドスッて鈍い音と共に先生が急に呻いた。
またビビッてビクッてしちまったよ。
どうやら高瀬が後ろから先生の背中を殴ったらしい。
先生に手を上げるなんて恐ろしい奴だな。
『それでは、二人一組を始めます!』
『位置について、よーい…どんっ!』
ピストルが鳴ると直ぐに虎威先生は走り出した。
虎威先生、俺を抱っこしてるんだよな?
それなのにめちゃくちゃ早くないかっ?
肩越しに後ろを覗くと他の顧問の先生達が生徒と一緒に走ってる。
抱っこされてんの、俺だけか…
振り落とされないようにしっかりとしがみついとこ。
「汰狼ちゃん!このままゴールよぉっ!」
「悪いが俺達が勝たせてもらう!汰狼君、ごめんね。虎威には負けたくないんだっ」
「喋る間があれば走って下さいっ」
走りながらも何処か余裕な感じで中原先生が隣に並ぶ。
高瀬、まだ先生の背中殴ってるぞ。
競馬の馬を叩いてる騎手みたいだ。
あの体勢はその為か!
『おぉーっ!牛椰先生と虎威先生が並んでますっ!これはどちらがゴールテープを切るのかっ!』
『生徒会が1位になるとこの先逆転は厳しくなるでしょうっ!果たしてどちらが先にゴールするのかっ!』
俺を抱き抱えて走る虎威先生とヘビースモーカーと噂の中原先生にはきついだろうな。
ゴールが近付いてきても未だ互角。
俺は居ても立ってもいられなくなった。
[
*prev] [
next#]
[
mokuji]