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獅希が用意した鍋にサラダ油を注ぎ込んだ。
寮のキッチンは今流行りとやらの電気のコンロで獅希が何か弄ってる。
俺、これの使い方分かんなくて昨日火力最大にしたんだよな。
肉焦げたのってそれが原因か?
「とんかつは油を中温にして揚げる」
「中温って?」
「大体170から180度」
それって十分高温じゃねぇか?
驚いてメモを書く手を止めて獅希を見るけど当たり前って顔してる気がする。
表情で読み取れねぇから多分だけど。
高温なら油何度ぐらいになるんだろ。
メモを書き終えたら獅希がコンロの電子表示の所を指差して中温になっているのを確かめさせる。
確信した。
やっぱ昨日のは温度が高過ぎたんだ。
「このコンロは有能だから一度設定したら弄らなくて良い」
「凄ぇ助かる」
そんな素晴らしいのかこのコンロ!
でも素晴らしさが分かる度に失敗した自分が情けねぇ。
「入れる時油が跳ねるから気を付けろよ。慎重に」
獅希の言葉に何回も頷いてとんかつが揚がるのを眺めてた。
「美味ぇ…!」
試しに揚げたとんかつの試食中。
とんかつ美味ぇ。
くそっ、早く飯炊けねぇかな。
「今からお前も同じ事やるんだぞ」
夢中になってとんかつ味わってたから忘れてた。
ちゃんとメモ取ったから手順は完璧だけど不安だ。
「……なぁ、手伝ったり、してくれねぇ?」
パックに入ったままの豚肉を見つめながら聞いてみる。
こんだけ世話になってもやっぱり1人で作るのは不安だ。
万が一失敗したら…考えたくねぇ。
「…初心者中の初心者1人で作らせるのも心配だからな。手伝うけど作るのはお前だ」
「おう!」
良かった!ふざけんなとか言われなくて良かった!
よく考えたら獅希はそんな事言う訳ねぇよな。
清隆寺に毒された所為で疑り深くなってしまった。
悪ぃ獅希。
そして有り難う獅希。
メモをシンクに置いてしっかり腕を捲って手を洗って俺は豚肉を睨み付けた。
人生初の料理を成功させてみせる。
昨日のはノーカンだノーカン。
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mokuji]