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「まず肉の脂身が多かったら少し取っておく」
「俺、脂身結構好きなんだけど」
「清隆寺も好きか分かんねぇだろ?」
「ああ、そっか」
納得して直ぐにメモに書く。
獅希の手付きがプロだ。まだ生肉なのにもう美味そうに見えてきた。
「塩コショウを振って下味を付けてこれで肉を叩く。そうすると柔らかくなるからな。でも叩き過ぎたら形崩れるから程々に」
そう言った獅希は手にハンマーみたいなの持ってる。
でも表面はデコボコしててあれで殴られたら痛そうだよな。
ああ、豚肉が…。
豚肉、我慢しろ。
「裏表叩いたら赤身と脂身の中間を何ヵ所かハサミで切り込みを入れる。そうしたら揚げた時に丸まらねぇから」
「なるほど」
獅希の言葉をそのままメモして納得したけど揚げた時丸まるとか知らなかった。
お袋も料理上手かったからとんかつ真っ直ぐだったし。
とんかつ作るのも手間隙掛けるんだな。
衣つけて揚げて出来上がりだと思ってた。危ねぇ。
獅希は料理も説明も上手ぇよな。女だったら良い嫁になる、絶対。
つか俺、一人でここまで出来るか分かんねぇ。
「今のところ質問は?」
「んー…ない」
ちゃんと細かく説明してくれてるから料理音痴の俺でもよく分かる。
脂身切って肉味付けして肉叩いて切ってだろ。
大丈夫だ。
「汰狼、次はどうするか分かるか?」
「パン粉をつける」
思わず右手を上げて答えたら眉間に皺が。
無表情の割に眉間に皺寄せるのは得意だよなお前。
「……小麦粉、卵、パン粉の順番で付けるんだよ。いきなりパン粉付けても肉につかないだろ」
「そっか」
納得納得。肉にパン粉めり込ませるわけにはいかねぇもんな。
でも何で最初に小麦粉なんだ?
…聞くの止めとくか。今はそんなに覚えられねぇ。
「パン粉はしっかり押さえて付ける。でも、握り過ぎるなよ」
握り過ぎるな、と。
もうメモがぎっしりだ。
改めて初めから読み直してみたけど獅希の説明が分かりやすかったお陰で多分、出来る。
ついに揚げる時が来た。
サラダ油のボトルを抱えて揚げる用の鍋を用意する獅希に感謝した。
お前のお陰で何とかなる。あとは揚げるだけだしな。
そんな軽い気持ちを後々後悔する事になるのは言うまでもない。
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mokuji]