声に乗せて | ナノ


 


今度はテストで酷い点数を取らないようにちゃんと授業を受けた。
理由もバッチリだ。
来週、帰国する父を迎えに行くので見逃して下さい!
シュミレーションもバッチリ。
90度のお辞儀の練習もしたし…バッチリの筈。
終礼が終わって直ぐに俺は数学準備室へと向かった。
通称、魔王の巣窟。
何で桐野は今から行くって時にそんな物騒な通称を教えたんだろ。
バッチリなのに怖くてノックが出来ない。
でも流石にこれ以上は…うん。
桜慈、俺頑張るからね!


「失礼しま「あぁ?」

今、すっごく不機嫌な声が聞こえてしまった。
声はさっき聞いたばかりの高田先生の声。
先生は準備室の奥のデスクに座って本を読んでる。
こっちを見てる顔があからさまに怖いし窓に映る真っ赤な夕日がよく似合う。
魔王が此処に居る…!

「橘か。お前が此処に来るなんて珍しい。用件は何だ?」

「え、と、そのっ、金曜に父が帰ります!」

「……はぁ?」

あまりに不機嫌な先生にテンパって折角の練習が無駄になってしまった。
駄目だ、ここで諦める訳には行かない!

「あ、あのですね。来週の金曜にその、外国に行ってる父が帰国してくるので迎えに行きたいんです。だから補習は別の日に…」

「ほう…なら俺も空港までついていってやろう。俺の可愛い教え子の親御さんなら挨拶ぐらいしないとな」

「え!?」

そんな返答が来るとは…!
先生がニヤニヤしながら俺を見てる。
もしかして嘘ってバレた?
いや、先生の事だ。
これが元の顔かもしれない。

「橘、お前、嘘吐くのが下手だな。目が泳いでるぞ」

相変わらずニヤニヤしてる先生がコーヒーを啜って俺を見てる。
いつも困ったら適当に返事して誤魔化してるから嘘とか吐いた事無いよ。
そんなに分かりやすかったのか。
顔を見て話そうとするんじゃなかった。
もう駄目だ。

「外せない用があるのなら日頃からしっかり勉強しろ。しかも俺の科目だけとは良い度胸だ」

「すみません…」

絶対さっきよりイライラしてる。
もう怖いから顔を上げられない。
ライブどうしよっかな。
どうせステージに立たないんだから録音かな…でも復活初日のライブは参加したかった…

「お前の補習は来週の火曜の放課後だ。ただし、合格点に満たなかったら金曜の補習も強制参加させるからな」

「えっ…?」

嘘だとバレたからには絶対聞き入れてもらえないと思ったのに。
しかもあの吉田先生だ。
何で?

「帝に頼まれたからな。お前があいつの従兄弟とは」

先生の言葉に固まった。
まさか此処で帝の名前が出てくるとは…顔が広いというか。
今更だけど。

「先生、帝と知り合いですか?」

「ただの腐れ縁だ。金曜は大切な用事があるからお前を早めに帰らせろって言われている。ったく、今回だけだぞ」

「はいっ!有り難うございますっ」

今回だけで十分だ。
次からは本当にちゃんと勉強しないと。
帝にもお礼を言って…こっそり先生にもお礼をしよう。


「まさかお前があの姫とはなぁ…」

ドアを閉める時、先生が何か言った気がしたけど本を読んでいたから頭を下げて準備室を後にした。


 


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