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状況が理解出来なくて眩暈がする。
桜慈と俺が兄妹じゃないって?
似てる所なんて瞳の色ぐらいしかないけど…それでも兄妹のはずなのに。
俺が桜慈の世界に存在しないなんて悲し過ぎる。
「橘っ、大丈夫か?もうすぐ部屋に着くからな」
「え?ああ、うん」
あまりにも顔色が悪いからって桐野に付き添ってもらって部屋に戻る事にした。
顔色も悪くなるって。
最愛の妹との関係を全否定されたんだから。
動揺するに決まってる。
「……なぁ、何があったんだ?さっきまで元気だったのに」
「んー…」
聞かれても答えられないから曖昧にしか返事できない。
桜慈の事を話せば綻びて隠している事が全部バレてしまう。
桐野も熱狂的な姫のファンだ。
俺が姫だなんて失望させたくない。
ゆっくりとしたペースで歩いていたのにいつの間にか部屋に着いた。
カードキーを取り出そうとポケットに伸ばした手を桐野に掴まれた。
「桐、野?」
「あのな、…何かあったんなら俺には相談しろよ?お前、他に仲が良い友達居ないんだから」
失礼な。まだ入学したてなんだから友達居なくて当たり前だ。
これから出来るかもしれないし。
でもあまりに真剣な顔をしてるから黙って頷いた。
いつもは何とも思わないのに桐野がやけに格好良く見える。
「桐野って男前だな。モテるのも分かる」
「……何で前触れもなくそんな事言うかな」
「もしかして照れてる?」
桐野ならこれぐらいの事聞き慣れてるだろ。
いつも周りがキャーキャー言ってるし。
「良かったら中入る?紅茶とお菓子ぐらい出すけど」
「お前、気分悪くないのか?」
「んー…1人で居たくないなぁ、なんてね。送ってくれてありがと」
笑いながら冗談っぽく言う。
1人で居たくないのは確かだ。
絶対悪い方に考えてしまう。
でもこれ以上桐野を付き合わせるのもなぁ。
「だから俺には気ぃ遣わなくて良いって…仕方ない、美味い紅茶淹れてもらおっと」
鍵を開けて中に入ろうとしたら桐野も一緒に入ってきた。
最初の方は声が小さくて聞き取れなかったけど紅茶が飲みたいらしい。
お礼の為にも美味しい紅茶淹れなきゃな。
「紅茶淹れんの上手いな」
「ありがと」
2人でソファーに座って紅茶を啜る。
桜慈とか陵に褒められるのは慣れたけど桐野に褒められると照れ臭いな。
それから桐野と他愛ない話をした。
もうすぐ実力テストがあるって話題になって急遽勉強する事にした。
他にやる事もないし。
暫く勉強して時計を見たらもう歓迎会はとっくに終わってる時間だ。
陵が帰ってきたら桜慈の事聞いてみよっかな。
陵なら知ってるかも。
「もうこんな時間か。吉川先輩遅いな」
「風紀だし、仕事が「燈瑪ぇぇぇっ!!」
ガチャッてドアが開いた音がして視線を向けるよりも先に飛び付かれた。
あまりの衝撃にソファーの背凭れで後頭部を打った。
痛い。
「燈瑪っ、あのね、違うんだよぉっ!燈瑪は僕の大切なお兄ちゃんだからっ!」
感極まった桜慈が俺に跨がって抱き着いたまま必死に喋ってる。
桜慈、白薔薇の制服に着替えてる。
紅百合の制服じゃないのかぁ。
じゃなくて、ちょっと待って桜慈。
俺の隣の奴に気付いて。
「桜慈っ!燈瑪から退…」
後から続いて入ってきた陵が固まる。
視線の先は俺の隣。
そりゃ固まるよね。
「橘……そいつ、白の王子様だよな?」
「……あ」
桜慈もやっと気付いた。
どうしたものか。
桐野が俺の肩を掴んでじっと見つめてくる。
「今回は誤魔化さずに説明しろよ」
もう誤魔化せないよね。
観念して頷いた。
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mokuji]