夜明け前のひまわり


 夏休み。カナエちゃんのお母さんに呼ばれた私は、カナエちゃんの家に泊まりにおじゃましていた。何日もおじゃまするのは迷惑だし気が引けるけど、おばさんは小学校低学年以来カナエちゃんに友達ができたのがたいそううれしいらしく、一週間ほどお泊まりする予定になっていた。

「さすがに朝はちょっと肌寒いねー」
「まだ夜明け前だしね」

 二日目の早朝。早く目が覚めてしまったカナエちゃんに半ば無理矢理起こされて、朝早すぎる散歩をしていた。私はパーカーを羽織ってきたけど、大丈夫大丈夫と人の話を聞かなかったカナエちゃんは部屋着のTシャツのままで、見てるこっちもちょっと肌寒い。

「あ、ひまわりだ。ねぇカナノ見て、ひまわりが咲いてるー!」

 カナエちゃんが足を止めたのに気付いて、一歩遅れて私も足を止める。私は外灯であんまり見えないけど、星を眺めてたから全然気づかなかった。ちなみに今の空には特に明るい星は見当たらない。かろうじて西のほうにはくちょう座のデネブが見えるくらいかな。明けの明星はまだ見えないみたい。

「太陽が出てないからかしょんぼりしてるねー」
「そうだね」

 この時間は寝てるのもあるけど、物憂げに頭を垂れている夜のひまわりは見たことがなくてちょっと新鮮だ。昼間の元気な様子ばかりいつも見ているから、カナエちゃんの言うようにしょんぼりしてるみたいにも見える。

「さて問題です。ひまわりは日中は太陽を向いて咲きますが、太陽の出ていないこの時間帯はどこを向いているでしょうか」
「え、えぇ? うーん……考えたことなかったな……」

 いつか読んだ本にあった知識を思い出して、問題を出してみる。うーん、とカナエちゃんは腕組みをして一時うなった後、全然分からないと呟いて体の力を抜いた。

「正解は東でした。なんで東か分かる?」
「うーんそうだなぁ……。……あ、東から太陽が昇ってくるから?」
「正解」
「やった!」

 ぴょんとその場で跳ねるカナエちゃん。両手を上げてうれしそう。

 ひまわりは太陽が出ている間は太陽を追って東から西へと首の向きを変えるけど、太陽が沈んでからは逆に西から東へ、太陽を待つように首が向くらしい。ひまわりがなぜ太陽を追うのかは分かってるけど、太陽が沈んでからそうなるのはなぜか分からないらしい。不思議だね。

「じゃあひまわりの花言葉は? 知ってる?」
「えっ知らない!」
「知らないの?」
「え、知らないのっておかしい?」
「や、有名かなって思ってたから……」

 てっきりすんなり答えが返ってくるかと思ってたら、知らなくてちょっとびっくり。ひまわりの花言葉って有名だと思ってたんだけどな。

「答えは?」
「……言うの?」
「だって気になるし!」
「自分で調べてよ。スマホ持ってきてるんでしょ」
「えーめんどくさい」

 カナエちゃんはめんどくさがり屋だ。すぐに答えを知りたがる。調べものって楽しいと思うんだけどな。意外なことまで知れるし。

 とか言いながらも私が徹底してスルーしてると、ぶつくさ言いながらもポケットからスマホを取り出して調べ始める。教えてあげてもよかったんだけど、ちょっと言うのは恥ずかしかったからね。だって、ひまわりの花言葉って、

「『あなただけを見つめる』?」
「そう」
「ひまわりらしいね」

 きっと太陽を追いかけ続ける様子からなんだろうね。

 それっきり興味を失ってしまったらしいカナエちゃんはスマホをポケットに戻す。

「ひまわりって、ずっと太陽のほうを向いてると思うじゃない?」
「うん」
「でもひまわりが太陽を追いかけるのは若い頃だけで、咲いちゃったらずっと東を向いてるんだって」
「そ、そうなの?」
「それに太陽のほうを向く花はひまわりだけじゃないしね」
「……一気に夢も希望もなくなった! もー、カナノのばか!」

 カナエちゃんが殴りかかってきたのでひらりとかわす。べー、と舌を出してこれ以上カナエちゃんに怒られないように走り出す。ぱたぱた、後ろからせわしないサンダルの音が聞こえて、意味もなく笑った。

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