変わり者同士だね
「カナノはさ」
こてん。カナエはカナノの肩に頭を預けながら、恋人の名前を呼ぶ。カナノは読んでいた本にしおりを挟み、肩に乗せられたカナエのほうを見やる。
「ん?」
「なんであたしと友達になろうと思ったの?」
そっとまつ毛を伏せながら、カナエは問いかける。冬だというのに校則で許されているタイツを履かずにむきだしのひざを見て、寒そうだとカナノは本を閉じながらぼんやり思った。
「おもしろそうだと思ったから?」
「おもしろそうって、何が?」
「本当に素手で熊が倒せるなら」
カナエは郷田という苗字のせいで、今までずっと怖い印象を持たれ、高校ではとうとう"熊殺しの郷田"という異名を得た。一部の男子には"姉御"と呼ばれ、クラスメイトどころか学年中から恐れられている始末で、友達という友達は今までにできたためしがない。
「昔空手は少し習ってたけど、ふつーに考えて熊なんて倒せるわけないじゃん」
「それ、前も聞いた」
それに対してカナノは、カナエに出会うまでほとんど友達を作らずに生きてきた。理由は、今まで好きになる対象がみんな女の子だったから。仲良くなって、また好きになってしまうのが怖かった。女の子が女の子を好きになるなんておかしい、気持ち悪いと小学生の時に言われた台詞は、今でもカナノの胸に突き刺さっている。
「カナノって変わってるよね」
「まあ最初に声かけた時はそんなうわさが流れてるなんて知らなかったのもあるしね。それに、カナエちゃんも充分変わってると思うけど」
「どの辺が?」
「じゃあ逆に聞くけど、カナエちゃんはどうして僕と仲良くなりたいと思ったの?」
だから一人称を"僕"にすることで、周りに壁を作って、自分を守るための脆い鎧をまとって過ごしてきたカナノ。
「うーん……まあ、普通に声かけられて、あわよくば友達に……! って下心があったのは否定しない。けど、はじめてカナノを見た時、かわいい子だな、どんな子なんだろう、知りたいなって思ったのも事実」
カナエと出会って仲良くなっていくうちに、やっぱり友達では抑えきれなくて。しかしカナエは、そんなカナノをすんなり受け入れてくれた。
「……やっぱり、カナエちゃんって変わってるね」
こてん。カナエの頭にそっとカナノは頭を乗せる。
「カナノには言われたくないよ」
「なんで」
「なんでも」
「なんで」
「なんでもだよ」
何がおかしいのか、急にくすくす笑い出したカナノにつられてカナエも笑う。重なり合った手に、ひらり、カエデの影が舞った。