大好きだよ
カナエがふと目を覚ますと、カナノの寝顔がすぐそこにあった。いたずら心が芽生えて、布団に潜っているせいでほんのり赤くなっている頬をちょん、と人差し指で触る。んん、と唸りながらカナノは眉間にしわを寄せたが、目覚めはしなかった。
寒いから同じ布団で寝ようよ。そう提案したのはカナエだった。「えー、狭いじゃん」などと言いながらも最終的には一緒に寝てくれるカナノがカナエは好きで、そのことを思い出したカナエは声を出さずに笑う。結局カナノは、普段はクールに見えて、自分には甘いから。それがカナエはうれしい。しかしまあ、それを本人に言ったら、「そんなことないし」と普段通りに読書に戻るのだろう。その頬はきっとほんのり赤い。
カナノの顔にかかった髪を耳にかけてやると、カナノの表情が心なしか笑ったように見えた。何か幸せな夢でも見ているのだろうか。その夢に自分が登場していたら、なんて、相変わらずカナノの寝顔を見ながらカナエは考えてカナエもまた笑う。
時計を見るとまだ午後一時で、起きるのには早すぎるとカナエは目覚まし時計を元の場所に戻す。もう一度寝ようとカナエは目を閉じて、今まで、カナノと付き合うまでいろいろあったなと、これまでのことを振り返ってみる。カナエはカナエで、友人と呼べる友人ができたのははじめてのことだったし、カナノも事情があってそうだったらしい。上手くいかなくて、何度も衝突して。それでも結局今の形におさまったんだから、そんなのはカナエにとってはどうでもいい。カナエにとって大事なのは、今が幸せなこと。
もう一度眠りにつく前にカナエはふとカナノに触れたくなって、カナエはさらりとしたカナノの長髪を撫でる。カナエはカナノの髪が好きだった。いや、カナノの好きなところをあげるとしたら全部なのだけれど、カナノの長い髪をいじるのが、カナエは好きだから。
自分のすぐ隣で、大好きな人が幸せそうに寝息を立てているのがうれしくて。寝る前に絡ませた足はそのままで。
「カナノ、大好きだよ」
目の前の恋人に囁くと、カナエも目を閉じた。