浩司×朔楽


人の波に揉まれて、二人はコンサートホールのメイン会場から出口まで押し流されるように外へ出て来た。
今は三月。暦の上では春と言えども、まだ寒さを感じる気温である。開いたドアの隙間から入ってくる冷たい風で覚悟は出来ていたけれど、いざ外気に晒されると中との気温差に、朔楽は唇をぐっと結んだ。それでも寒い!と悲鳴を上げなかったのは、あの演奏を聴いての第一声に為るには勿体なかったから、に他ならない。
階段を降りながら、自然と隣の彼と歩幅を合わせているものの、そう言えばアンコールが終わってからお互いまだ何も言葉を交わしていない事に気付いて、ちらりと視線を向けた。
すると、丁度同じタイミングで、視線がかち合った。浩司のくるくるとカールした前髪から茶色の両目が覗いている。
同じ事を考えていたのだろうか。
浩司は「ごめん、余韻に浸ってたら言葉出なくて。凄かったね」と困ったように眉尻を下げて、笑顔を向けて来た。

「い、いえ、なんで謝るんですか…!此方こそ圧倒されて、言うの遅れましたけど、誘って下さってありがとうございます」

何と無く性格が似ているもので。
朔楽も身体を縮こまらせながら頭を下げた。

「ふふ、じゃあ良かった。僕も初めてだったから良い経験になったよ、ありがとう」
「……あの、」
「ん?」

ーーチケット、高かっただろうに良いんですか。
問い掛けてしまおうかと思った朔楽だったが、野暮な気がして、結局口籠る。
海外のプロオーケストラコンサート、しかもS席と来たら、基本的に高校生にはポンと奢れない金額である。
朔楽の様子に何が言いたいか伝わったらしく、浩司は小さく首を振り、

「高校卒業祝いだよ、たまには人生の先輩らしいことしたいんだ。朔楽くんも大学生かあ、あっという間に大人だね」

感傷深く呟いた。

「あんまり実感ないですけど……」
「あはは、そんなもんだよね」

出会いは楽器屋で、歳やジャンルは違ったものの、共通点が多かった。例えば性格や、小柄な身長、誕生日、など。
浩司はバンドサウンドにロック以外の要素を織り交ぜて自分らしい音楽性を探っていた時期であったから、朔楽の吹奏楽部での話は愉しく、刺激になったのである。
雑談を交わしながら、タクシーが並ぶ通りまで、二人並んで歩いていく。周りに人通りが減っていくに釣れて、自然と距離が縮まっていた。

「大学行っても、フルート続けるんでしょ? 朔楽くんの音好きだから、……、……今年も聞かせてね」
「も、もちろんです」

浩司が恥ずかしさを滲ませると、朔楽まで頬を赤らめてしまう。それでも、口元は緩んだ。
冷たい指先が触れた。
やんわり手を繋ぐ。
普段なら人目を気にして出来ない事だったが、今日は寒いから、と言い訳に出来る夜だった。

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