やさしい旋律、幸せなひと時


 りっちゃんは実はハープが弾ける。その事実を知ったのは、つい数ヶ月前のこと。知った時はそりゃ驚いたよ。ハープって、なんか雲の上の存在っていうか、弦バス以外の弦楽器って吹奏楽じゃ身近じゃないからさ、こんな近くに弾ける人いるんだ? ってさ。

 もともとハープの音は好きだし、りっちゃんの弾くハープはりっちゃんのやさしい性格が反映されてるからか、すごく聞いてて心地よくて、時間もやさしくおだやかに過ぎるから、りっちゃんのハープを聞く時間は至福のひと時のひとつでもあった。

 今日も気まぐれに持ってきてくれたハープ――っていってもあの大型のじゃなくてちっちゃいやつ、名前は忘れた――で、秘密の音楽会が開かれていた。つっても準備室で聞いてるのが俺だけであって、音楽室で聞いてる人も何人かはいるんだろうけど。でも特等席は俺だ。

 今日はおまかせで、って頼んだら、少し悩んでりっちゃんが弾きはじめたのはいろんな外国の童謡、らしい。りっちゃんが説明してくれた。中にはなんとなく聞いたことがある曲もあって、そうじゃない曲も聞いてて心地よくて、やっぱりこの時間は幸せだなぁ、なんて。

「痛っ」
「だっ、大丈夫? りっちゃん?」

 突然痛そうな声と共に音が止んで、びっくりして思わず駆け寄る。……あ、ずっと目を閉じて座ってたせいで立ちくらみが。

「大丈夫大丈夫。ちょっと指が痛くなっただけ」
「む、無理はしないでね……? というか無理させてるの俺か……ごめん」
「なんで謝るの? 僕が好きで弾いてるだけなのに」

 いやでも、時々聞かせてね、ってお願いしてるのは俺だし……。

「こんなの、ばんそうこう貼っておけば大丈夫だよ。ごめん、曲の途中だったね」
「いや、いいよ……。午後も練習あるし、ほんと、無理だけはしないで……」
「うーん、ばんそうこう貼れば大丈夫なんだけどなぁ。なるみんは心配性だなぁ」

 そう言ってりっちゃんはくすくす笑う。そりゃ心配だって……。誰だって痛がってたら心配するじゃん。指って楽器やる人にとっては大事だし。りっちゃんの弾くハープだけじゃなくて、鍵盤も聞けなくなったら俺はどうすればいいか分からん。それにりっちゃん、時々我慢するからなぁ。

「あのね、なるみんが心地いいって言ってくれるから、つい弾きたくなるの」
「……お、俺のためにありがとう……。……だからさ、もう聞けなくなったりしたら悲しいから、指、大事にしてほしいなって」
「ん、ありがと。でも、本当にばんそうこう貼れば大丈夫だから。大したことないからね?」

 俺にはよく分かんないけど、りっちゃんがそう言うならきっと大丈夫なんだろう。俺も信じることにする。

「こんな時にまた言うのもあれだけど、さ。また、気が向いたら聞きたいな、りっちゃんのハープ。好きだから」
「えー、ハープだけ? 僕のことは?」
「……も、もちろん好きです……」
「なんてね。意地悪言ってごめん。僕も好きだよ。……それに、なるみんが聞きたいって言ってくれるなら、また弾くよ」
「……うん」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -