観客席から見る幼馴染の顔


前の団体の演奏が終わって退場すると同時に反対側から音哉が入ってくるのが見えた。ステージの上は薄暗いし、俺の座ってる席は後ろの方だけど、音哉は真っ先に見つけられる自信がある。

今日、俺は近くで開催された演奏会に来ていた。そういえば、お客さんとして演奏を聴くのはすごく久しぶりかもしれない。いつもは演奏する側だから。
演奏するのも演奏を聴くのも好きだけど、今日ここに来たいちばんの理由は音哉が出るからだったりする。久しぶりにいろんなところの演奏が聴けるのももちろん楽しみだけどね!

なんで音哉が出てて俺が出てないのか、っていうのは、今回音哉が助っ人として呼ばれたから。珍しく、って言ったら自意識過剰みたいだけど、パーカスは呼ばれなかったんだよなぁ。大体どこもパーカスは人手不足だからよく呼ばれてるんだよね。都合さえよければ呼ばれたら行くよ。

団体と演奏する曲目の紹介が終わって、演奏が始まる。

どこかの演奏を聴くのもすごく久しぶりだけど、音哉の演奏をお客さんとして聴くのってもしかしたらはじめてかもしれない。……あ、高校の時コンクールで一回聞いたな。
コンクールはお互いの演奏時間の関係でなかなか聴けないし、文化祭とか、近くのお祭りとかに出てても練習とかぶって行けないしで、お互いの演奏を客観的に見るってことはほとんどなかった。一緒に演奏したい、って気持ちも大きかったしね。

演奏中の音哉ってこんな表情してるんだな、とか、この音はきっと音哉が出してる音なんだろうなとか。改めて客観的に聴いてみたら、いろんなことに気付く。演奏中の音哉の顔なんて多分今はじめて見たよ。
俺たちが演奏してる時、お客さんは音哉のこんな顔見てるんだなって思うとちょっと嫉妬したりなんかもして。音哉はいつもかっこいいけど、演奏してる時の音哉ってもっとかっこよくてさ。スポーツしてる男子がいつもよりかっこよく見えるのと同じなのかな。

しっとりした曲は真剣な顔で。マーチは楽しそうな顔で。ノリのいいポップスはそれはもううきうきで。表情の変化を見てるだけで楽しかった。演奏中、曲によってこんなにもいろんな顔してるんだなぁ。
指揮を見つめる真剣な表情を見ながら、俺の方も見てくれないかなって念を送ってみたら目が合った気がした。

そんなこんなしてるうちに演奏が終わって、俺からも熱い拍手を送る。

あ、音哉ばっか見てたって思われてるかもしれないけど、演奏もちゃんと聴いてたからね?

ステージがまた薄暗くなって、今度はぞろぞろと退場していく。その間もチューバを運ぶ音哉を目で追っていた。
大きなチューバを軽々と抱えてさっさと引っ込んだ音哉をここから見るのは新鮮だった。一緒に演奏する時はパーカスは楽器が多いから演奏が終わったら終わったで忙しい。ステージに出る前は音哉にちょっかいをかけたりはできても、演奏が終わってからは少しの間音哉とはお別れ。パーカスは基本別行動だからね。

音哉たちの演奏は最後から二番目だったから、最後まで演奏を聞いてから帰った。早く帰って、帰ってきた音哉に「おかえり」と「お疲れ様」を言って、疲れてるだろうからご飯とか作っててあげようかなって思ってた。けど、よく考えたら打ち上げ行くんだよな。打ち上げはいちばんの楽しみだから行くなとは言わない。帰ってきたらお風呂に入ってすぐ寝られるように準備しておこうかな。

音哉はどこの打ち上げに行っても女の子に人気なんだろうな。そりゃあ、嫉妬はするけど音哉だから仕方ない。あれだけかっこよかったらモテない方が不思議だもん。

帰る途中に行きつけのスーパーに寄って、夕飯の買い物をして帰る。
帰ってきてさあやるぞ! と意気込んだけど、車の運転は久しぶりだったからなんだか疲れちゃって、少し休んでから、と思ってたらいつの間にか寝てた。目が覚めたら目の前に音哉の寝顔があって、何時間寝てたんだよ俺と自分に突っ込みつつ、しっかり抱きしめられてて起きるに起きられないからもう一度目を閉じた。

(寝顔だけは、俺の特権だよね)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -