what one really thinks


「んー……遅いなぁ」

ぼーっとしてたら三十分くらい意識が飛んでたみたいでびっくりしたけど、それでも音哉はまだ帰ってきてないみたいだった。
携帯で時間を確認して思わず独り言が漏れた。また寝たらやばいと思って特に興味のないテレビをつける。なんとなく眠くて譜読みをする気にはなれなかった。

「今日は十時くらいには帰れると思う」

バイトが終わると音哉からそんなメールが届いていた。
俺も今日は朝からバイトで疲れてたんだけど、いつも俺の方が帰るのが遅い時はいつもご飯準備してくれてるもんな、と思って今日は俺が風呂掃除もご飯作るのもやろうと帰りのバスで意気込んでいた。

音哉の家は両親が共働きで、お父さんは家にほとんどいなくてお母さんは朝早く行って帰りは夜遅くっていうのがほとんどだったから、家のことは音哉がやっていたようで家事には慣れていた。ご飯も美味しいし。俺もお父さんは仕事で家にいないことも多かったけどお母さんは俺が帰る頃には家にいたから、家事なんてほとんどしたことがなかった。俺の作るご飯はあんまり美味しくないです。

帰りにスーパーで買い物をして、高校の時の家庭科の教科書を見ながら下手なりに精一杯ご飯を作って。疲れてるから最初にお風呂かな、と思って掃除をしてお湯も沸かした。疲れたから寝る、って言われてもいいように布団もちゃんと直してあげた。

……のにまだ帰ってこない。時間は十一時を過ぎてる。たまにある残業かなーと思いながら待ってたけど、そういえばこの間バイトで女の子と仲良くなったとかそんな話をしてたっけ。まあ音哉なら仕方ないよね、幼馴染っていうひいき目を抜かしてもイケメンだし。だから高校の時も女の子と仲良くなっても大してなんとも思わなかった。仲良くなっても友達以上の関係には絶対いかないだろうしと根拠のない自信を持っていた。

っていうのを鳴海に話したら、「本妻の余裕か……」みたいなこと言われたけど、愛されてる自信はあるけど俺だってやきもち妬く時もあるんです。かっこいいからモテて当たり前、仕方ないとは思うけど限界ってものがあってだな。
仲良くしてるところを見たらもやもやしたり、っていうのはある。でもそういうのいちいち表に出してたら見苦しいじゃん。

もしかしてその仲良くなった女の子とどこかに遊びに行ってるのかな、それとも夜遅いから送ってあげてるのかな。明日は休みだし、それに音哉には音哉の付き合いがあるから誘われたら遊びに行くのも仕方ないことだよね。それならそれで一言連絡して欲しいとは思うけど。余裕がない時もあるよね。怒ったりはしない。

っていうか、あることないこと妄想してもやもやしてたって仕方ない。とりあえず音哉が帰ってくるのを待とう。

寝ないようにテレビの音量を少し上げてつけっぱなしにしてたにも関わらず、気が付いたらまた寝ちゃってた。ドアの開く音で気が付いて、眠気も一気に覚めて飛び起きる。

「おかえり! 音哉!」
「……ただいま。遅れてごめん」
「ううん、大丈夫。バイトお疲れ! ご飯あっためてくるね、俺が作ったから美味しくないけど」
「あぁ、ありがとう」

心なしか音哉はぐったりしてるように見えた。そんなに今日は忙しかったんだろうか。
レンジを見守ってる最中、ちらっと音哉の方を見たら頭を抱えていた。

「今日忙しかったの? 疲れた? 先にお風呂入る?」
「いや、大丈夫。腹減ったから飯食いたい」
「ちょっと待っててね」

俺がそう言うと同時にレンジが止まった。

あっためたご飯とおかずを並べると、呻くような声で「いただきます」と搾り出して音哉はがっついた。よっぽど今日は疲れたんだなぁ。
疲れて帰ってくる音哉のために美味しいもの作れるようになりたいな。音哉の作る料理は美味しいからさ。

「残業だったの?」
「いや……残業じゃ、ない」

いや、と言ってから音哉がしまったという表情をしたのを俺は見逃さなかった。幼馴染ですもの、微妙な表情の変化には敏感です。

「じゃ何してたの? 言いたくないなら無理に言わなくていいけど」

本音を言えば聞きたいけど、言いにくいことってあるからね。嘘つかれたらつかなきゃいけない理由があったんだなー、って思ってそれ以上は気にしないようにしてる。俺にだってたまにあるし。

「……この間さ、バイトで知り合った女の子がいる、って話したじゃん」
「あぁ、うん。最近入った子だっけ?」
「時間が時間だったから送ってけ、って周りに言われて、逆方向だったから……」
「そっか。女の子を夜ひとりで歩かせるのは危ないもんね」
「連絡しなくてごめん。俺のためにいろいろ用意しててくれてありがと」
「ううん、俺が遅い時はいつも音哉がやってくれてることじゃん!」

そういう事情があったんなら納得できる。さすが音哉、優しい。

「で、家の前まで送った後、いろいろ誘われてなかなか帰してくれなかった。……もちろん全部断ったけど」
「いやーイケメンは大変だね」
「嫉妬しねえの?」
「嫉妬って、して欲しいの?」

内心ではしてたけど、自分をごまかすように茶化すように受け答えしてたら、いきなり手を止めて真剣な声で聴いてきたからどきっとした。

「俺は別に、そういうの嫌じゃないし……」
「……じゃあ、してたよ」
「じゃあって何」

いつもは素直になんでも言えるのに、この時ばっかりは素直に言えなくて、同じ調子で答えたら左手で頭をわしゃわしゃされた。

「音哉はさ、かっこいいからモテるの仕方ないって昔から思ってるけどさ、女の子と仲良くしてたらそっちの方がいいのかな? って思ったりもするよ」
「ほんとに?」

でも俺の方が愛されてるもんね?
強がってそう言おうと思ってたら、妙に嬉しそうな声で音哉が聞いてくるもんだから一瞬で頭から抜けた。小さい子がお母さんに「今日はいいものがあるよ」って言われた時みたいな、はしゃいだ感じの。……うーん、ごめん、上手い例えが思いつかない。

「なんか、嬉しそう?」
「不謹慎かもだけど、すげー嬉しいよ、今。……だってさ、お前って、やきもちとかそういうのだけは絶対に言わなかったじゃん」
「……それはそっちもだよ」
「……そりゃ悪かった」

嫉妬なんて、ただ見苦しいだけだと思ってた。だってさ、いちいち好きな人が自分以外の人と仲良くしてるぐらいで嫉妬してたらキリないじゃん。……とは思っててもしちゃうんだよねぇ、嫉妬って。俺もまだまだ子どもってことかな。
だから俺はあんまり表には出さないようにしてたし、音哉だって俺が音哉以外の誰かに好かれてるとか、そんな噂を聞いてもただ流されて何も言わなかった。

「俺以外の人と仲良くするなー、とは言わないけど」
「うん」
「……音哉のいちばんは、俺だよね」
「当たり前だろ」
「ならそれでいいよ」

我ながら女々しい台詞だよね。この時は頭が回らなくてこれ以上何も思い浮かばなかったんだ。眠いのと、幸せなのとで。

その後すっかり冷めたご飯を音哉が食べた後、お風呂に入って久しぶりに同じ布団で寝た。小学生の時からずっとやってたことだけど、やっぱり今じゃ男二人が同じ布団なんて狭くて寝苦しいったら。
でもそんなことはおかまいなしに、恋人らしい甘い会話を冗談交じりでして、途中から記憶がないから俺の方が先に寝ちゃったんだと思う。

目が覚めたら薄明かりの中に音哉の寝顔が見えて、どうしようもなく幸せな気分になった。





what one really thinks=本音


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